表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

149/285

0149魔法陣破壊作戦06(2091字)

「タリアさん、ごちそうさまでした。……ところでスライムたちは誰がせき止めてるんでしょう? それとコロコさんとニンテンさん一家はどこにいるんですか?」


「ニンテン一家については、ケゲンシーが言うにはコルシーン国王城の城下町に避難しているらしいよ。コロコについては……」


 タリアはおかしくて仕方ない、とばかりに白い歯を見せた。


「コロコについては、凄い力を手に入れて、今スライムたちをせき止めてるよ。西の門でね」


「ええっ!?」


 ラグネは仰天してひっくり返りそうになる。そのようすをタリアに爆笑されながら、ラグネは慌てて靴を()き、部屋の外へ飛び出した。


 コロコさん……!


 数週間前、マリキン国ケベロスの街ニンテン邸にて別れて以来、何度彼女の顔を見たいと思ったことか。このロプシア王国王都でスライムたちに相対していた間、何度彼女の無事を願ったことか。


 生きている。それはルミエルに聞いて分かっていた。だが、まさかこの王都の最前線で戦っていたなんて。僕が寝ていたときも、食事を取っていたときも、コロコがあの黒い海を押しとどめてくれていたなんて。


 城から走り出て、そこそこのスペースに飛び込むや、一気に黄金の翼を広げた。


 コロコさん……!!


 朝日と反対側の方角へ飛び、囲壁の歩廊を飛び越える。きょろきょろ周りをうかがった。


「コロコさーんっ!!」


 その姿はすぐに確認できた。デモントとケゲンシー、ルミエル、僧侶たちの中央で、右拳から光の弾を放ち、スライムたちに風穴を開けている。ラグネは滑空して彼女の近くへ降り立った。


「コロコさんっ!」


 1ヶ月も経っていないのに、もう10年ぐらい離れ離れだった気がする。向こうもこちらに気がついた。


「ラグネ! もう大丈夫なの!?」


「はい、おかげさまで……!」


 心臓がどきどきする。おかしいな、前みたいに気楽に話せない……


「ひどいやルミエルさん。教えてくださらないんだから」


 (きゅう)したラグネが矛先(ほこさき)を向けると、ルミエルが微苦笑した。


「ごめんね」


 コロコがラグネの右手を取り、自分の左頬に押し当てる。ラグネは全身の血管が熱くなった。


「ラグネ……。えへへ、久しぶり」


「お、お久しぶりです」


 金色の両目がラグネの視覚を射抜き、心に突き刺さる。


「私、強くなったんだよ。きみに足手まといって言われたから……。きみをこの手で守りたかったから……。だから、この力を……!」


 コロコが口をつぐんだ。もうこれ以上抑えつけられない、とばかり、その表情がくしゃくしゃになる。両目に涙が(たた)えられ、美しい光の粒が頬を滑り落ちた。


 そして次の瞬間、ラグネとコロコは、お互いを強く抱き締め合っていた。


「ありがとう、コロコさん。ありがとう……!」


「ラグネ……! 会いたかった……死ぬほど……!!」


 自分の両腕のなかにコロコがいる。それ以上、ラグネにとって幸せなことはなかった。そして、きっとコロコも。


「コロコさん……」


「ラグネ……」


 相互の視線が交錯する。コロコは目を閉じた。その唇が輝いている。ラグネは心臓の鼓動に()かされるまま、自分の唇を、そっと重ねようとした。


「そこまでっ」


 いきなり肩をつかまれてコロコと引き離される。ルミエルだった。少し苛立ったようにふたりを分ける。


「のん気にしている場合ではないよ。ほら、スライムたちが迫ってきている」


 ルミエルは剣を引き抜くと、その真っ赤な刀身を魔物たちへ軽く振った。すると前方に炎の壁ができあがり、スライム群の侵攻を抑える。刀身が鈍い銀色に戻った。


「僕の剣は『火の剣』。炎を放つ武器だよ。一度使うと刀身が白くなる。徐々に赤く戻ってくるけど、それまでは今みたいな炎が出せない。中途半端な代物なんだ」


 そこへタリアの背中に乗ってイヒコ王が現れる。ラグネの顔を見て安堵のため息をついた。


「馬鹿者。タリアから聞いたぞ。急に個室を飛び出したそうじゃないか。心配するだろ」


 ラグネは頬を上気させて陳謝する。


「すみません」


 イヒコはデモント、ケゲンシー、コロコ、ルミエルにスライムをせき止めるよう指示した。それを横に、ラグネに今回の作戦内容を話す。


「……というわけで、タリアの手足にコロコ、ラグネ、ルミエルがつかまって、『影渡り』ではるかマリキン国のケベロスの街近郊を目指す。そして魔法陣を破壊するんだ」


 生真面目な顔つきでラグネの肩をつかむ。


「これはスライムたちが勝つか、人間たちが勝つか、瀬戸際の生存競争だ。頼むぞ」


 ラグネは疑問符を打ち出した。


「留守はどうするんです? スライムたちは間断(かんだん)なく攻めてきますよ」


「心配するな。デモント、ケゲンシー、魔法使いたちで何とかする」


 ラグネは頭を振る。あまりにも楽観的だったからだ。


「絶対無理です。僕かコロコさんがいなかったら、この王都はいつか攻め落とされます。これは確実ですよ」


 イヒコ王は悔しそうにうなった。


「しかしだな……。もう王都の食糧も底を尽きかけている。コロコとラグネのどちらかひとりだけ行かせて、作戦失敗したとなったら、これはもう目も当てられんぞ」


 そのときだった。


 城門の塔から、初老の男が頭を出して叫んできたのだ。


「ラグネ殿! イヒコ陛下! 小生(しょうせい)はムラマーと申す! 上より失礼!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ