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0146魔法陣破壊作戦03(2214字)

「それはどうか分からないけど……」


 コロコは謙遜(けんそん)しつつ、次々に光弾を撃ち出していった。スライムたちはそのたびに大きく数を減らす。


「とにかくラグネを休ませてあげて。私、しばらく持ちそうだから――僧侶の人の回復は必要だけど」


 デモントは我に返った。


「ふ、ふうん。ちょっとはできるようになったな、コロコ」


 自分の壊れたプライドを修復するような言い方が、ケゲンシーには(ツボ)だったらしい。彼女は笑いながら、コロコの撃ち漏らしを雷撃の魔法でぶっ飛ばす。


「デモント、ラグネを休ませるついでにルミエルを連れていってあげて。イヒコ王とコッテン国王に謁見させてあげるの。いいわね?」


「あいよ」


 さすがに少し不機嫌になりながらも、デモントは二つ返事で承諾した。そして僧侶を抱えて降りてきたルミエルにあごをしゃくる。


「行くぞ、ルミエル。王さまにお前のお披露目だ」


「その必要はあるの?」


「そりゃお前、反意がないことを示しておかないと、王さまも安心できねえからな。人間は強いものに(おび)える生き物なんだよ。せいぜいその怯えを取ってやろうぜ」


「分かったよ」




 こうしてデモントとルミエルは、コッテンとイヒコの両国王に謁見した。もちろんラグネを個室のベッドに寝かせてから、である。彼の面倒は城の召し使いに任せておいた。


「ラグネが倒れたか。やはり無理をさせてしまっていたか……」


 イヒコがデモントより報告を受け、無念そうに歯噛みする。コッテンが狼狽(ろうばい)した。


「待て、それでは今、西の方面――スライムたちのいる側は誰が担当しておるのだ!? ラグネの代わりなどおらぬだろうに!」


「今は『夢幻流武闘家』コロコが、光弾を連射して守ってます」


 イヒコとコッテンが同時に発した。


「コロコが!?」


 あの『昇竜祭』武闘大会覇者の少女。彼女がスライムたちに光弾を連射している? どういうことだ? イヒコとコッテンはわけが分からなかった。


 ルミエルがひざまずきながらも挙手する。


「僕なら説明できますが……」


 両国王は、むしろ()かすように彼をうながした。




「ふむ、隠者ジーラカか……。そやつの秘薬に耐えて、コロコは力を手に入れたというわけか。なるほどな」


 イヒコは何度もうなずく。デモントも初耳だったので、興味深く聞いていた。コッテンが話の終わりにかぶせるように、ルミエルへ質問する。


「おぬしは『神の聖騎士もどき』なのだな?」


「ルミエルと申します。火の剣を扱います。以後お見知りおきください」


「うむ。余のために働くがいい」


 コッテン国王はルミエルの従順ぶりに寛大なところを示した。もちろん示してみせただけで、本心では恐怖している。また化け物みたいな人物が現れた、と肝を冷やしていた。コロコといいルミエルといい、もはや人間を超越している。


 イヒコ王はそんなコッテンの胸中などどうでもよく、思考をある一点に集中していた。


「もしかしたら、コロコの光弾とラグネのマジック・ミサイル・ランチャーを合わせたならば、スライムたちの源泉たる魔法陣を破壊できるかもしれない……」


 そのつぶやきに、デモントは首を振る。


「イヒコ王、そのためには遠く離れた魔法陣に近づく方法がないと。俺さまたちは低空しか飛べないから、コロコを運ぶ途中でスライムたちに捕まっちまう……ぶひゃひゃひゃ!」


 いきなり笑い出したのは、デモントの影から現れたタリアが、彼の(わき)をくすぐったからだ。デモントが憤慨する。


「何やってんだ、お前!」


 デモントの背中側に着地したタリアが、頭の後ろで両手を組んだ。


「だってつまんないんだもん。私、やることないし」


 イヒコはそのさまを眺めた。タリアが『影渡り』の能力であちこち出歩くのは、今に始まったことではない。だが、待てよ……?


「おいタリア。その『影渡り』で、スライムたちの影に入ることはできるか?」


 タリアはまばたきした。そして難しい表情を作り上げる。


「……うーん、どうだろう。そうだね、たぶんできるよ。スライムたちは透明じゃなくて黒いし、太陽や月の影を投影してるかも」


 イヒコ王は突然沸いて出た自分のアイデアにうんうんとうなずいた。


「タリアの『影渡り』でスライムの影を伝って、西へ西へと渡っていけば、無傷で安全に魔法陣の近くまで到達できるんじゃないか? 何せスライムは膨大な数が密集しているからな。影が不足するということはあるまい」


 コッテン国王は(あわ)れむような視線をイヒコに送る。


「だが、そこまでではないか。影のなかを進んで、魔法陣の至近に迫ったとしても、そこからどうやってスライムたちのなかに出ようというのだ? 顔を出したとたん、すぐに食われるだけではないか……」


 この難問に答えたのは、イヒコではなくルミエルだった。


「それなら僕に腹案があるよ」


「何?」


「つまり、こうさ……」


 イヒコ、コッテン、デモント、タリアが驚愕した。


 これでコロコとラグネが魔法陣を撃つことは可能になった。後はまたタリアの『影渡り』で戻ってくればよい。イヒコとコッテンはその作戦を承知する。


 しかし、この案ではタリア、ラグネ、コロコ、ルミエルがこの王都から欠けることを意味する。これは痛い。果たして残りのデモント、ケゲンシー、魔法使いたちで、あのスライムの津波を防ぐことができるだろうか。


 それに食糧の問題もある。国庫はあと数日で尽きる。その間に作戦を完了させねばならない。それにこの王都が、民衆が耐えられるかどうか……


 何にせよ、今はともかくラグネの回復を待つしかない。話はそれからだった。

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