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0144魔法陣破壊作戦01(2088字)

(22)魔法陣破壊作戦




「はぁ……はぁ……はぁ……」


 ロプシア王国王都の西の囲壁、最上端にある歩廊から、少年はひたひた近づいてくる黒い海を見下ろしていた。


 背部(はいぶ)の光球『マジック・ミサイル・ランチャー』から、大量の光の矢を放ち、漆黒の液体生物(スライム)たちに叩きつける。その生命の源泉たる核を、体ごと打ち砕かれた異形の魔物は、かけらも残さず滅亡する。


 そうすると、また次のスライムたちが押し寄せてくるのだ。まるで自分の攻撃をあざ笑うかのように。


 もうどれくらいこうしているだろう。ラグネは思った。晴れの日も雨の日もあった。風の強い日と弱い日も。朝、昼、晩、また朝、昼、晩……どれだけの日数が過ぎたのか、自分の回復役の僧侶に尋ねた。


「2週間です。だいぶお疲れのようですね。今回復魔法をおかけしましょう」


「ありがとうございます」


 僧侶は呪文を詠唱し、ラグネに手をかざす。ラグネのうちから眠気や疲れが一掃された。これのおかげで2週間ぶっ続けで光芒(こうぼう)を魔物たちに浴びせ続けることができたのだ。食糧も最優先で食べさせてもらっている。サポートは手厚く、ありがたかった。


 だが、その間も休むことなく光の怒涛(どとう)を放ち続けなければならない。次第に骨の内側からにじみだすような疲労が、ラグネを絶えず襲うようになった。それは回復魔法でも治らない。


 そのためか、いつ頃からか撃ち()らしが増えた。やがてラグネの担当する西だけでなく、北と南もほかの魔法使いや賢者たちがカバーするようになった。


 スライムたちの勢力は衰えを知らない。ラグネのうちにくすぶる慢性的な倦怠(けんたい)感と精神的疲労は、その首を真綿(まわた)で絞めるような苦しみを彼に与えていた。


 と、そのときだ。


「おーいっ! ラグネーっ!」


 黄金の翼で青空を()けてくるもの。ラグネは喜色を声に乗せて叫んだ。


「デモントさん!」


 悪魔騎士のデモントは、背中にひとり、両腕で抱えているもうひとりと、ふたりの見知らぬ人物を連れてきていた。歩廊の上に着地する。羽を背中に格納した。


「その方々は?」


「冒険者の魔法使いたちだ。取り急ぎ手伝ってくれるってよ」


 デモントは上機嫌だ。ラグネは彼の行き先がザンゼイン大公領であると聞かされていた。


「ザーブラ皇帝陛下にはお会いできたんですね?」


「ああ、あっさりな。皇帝からは具体策を決めるまで待てとは言われたけど、ほかの街や村に早く周知する必要があるだろうってんで、さっさと飛び出してきちまった。後はあちこちへスライムの危険を知らせつつ、まあ時間はかかっちまったが、何とか戻ってきたってわけだ」


 心強いです、と言おうとして、ラグネは別の声に邪魔された。


「あーっ! 一番手を取られちゃった!」


 タリアだ。悪魔騎士のひとりで、太陽や炎などの影を渡って移動できる能力の持ち主である。彼女はマリキン国国王イヒコを背中に乗せて帰ってきた。西の歩廊へ、デモントと反対側に着地する。


 イヒコ王は帝国最南端のコルシーン国ドレンブン辺境伯領へ向かっていたはずだ。ラグネはマジック・ミサイルをフルに連射しながら、彼に問いかけた。


「どうでしたかイヒコ王、辺境伯トータさまのご返事は」


「うむ、タリアのおかげもあって、防備と備蓄に万全を期すと約束してくれた。行った甲斐(かい)があったというものだ。……ラグネ、お前は大丈夫なのか? 正直やつれて見えるぞ」


「お気遣いありがとうございます。まだもう少し頑張れそうです」


「すまんな。今はお前が何よりの頼りだ。引き続き頑張ってくれ」


「はい!」


 デモントがラグネの肩を叩いて片目をつぶる。


「俺たちは北をやっとく。きばれや、ラグネ!」


「ありがとうございます!」


 タリアがイヒコ王を背中に乗せた。


「じゃ、私はイヒコ王をコッテン国王のもとへ連れていくね」


「うん、タリアさん、行ってらっしゃい!」


 こうして(あわ)ただしくやってきて、慌ただしく去っていった2組の仲間たち。ラグネはその間もずっと光の矢の猛爆を黒い海へ加え続けていたが、心なしか体は軽くなった気がする。




 ロプシア王国コッテン国王は、あえてすべての情報を都民全員に知らせていた。王都の食糧には限界があるからだ。


 スライムが押し寄せてくる西の門とは反対側、東の門からの脱出は、特に問題なく可能だった。スライムへの恐怖をあおり、都民を逃亡へと()き立てることで、人口そのものを減らす。もちろん、出て行く人間には金も食糧も与えない。あくまで自由意志で逃避させることが肝要だった。


 こうすることで、なけなしの食糧を少しでも長く持たせる。それがこの方針の思惑だった。


 しかし旅人や冒険者、吟遊詩人や隊商などの流動民はともかく、王都に住居を構えている人々は、そう簡単にはこの街を捨てられない。彼らはコッテン国王の意向にはなかなか沿ってくれなかった。


 苦慮するコッテンのもとへ、イヒコ王がタリアとともに帰ってきたのは、そんな状況のさなかだ。


「そうか、ドレンブン辺境伯は承知したか」


「ああ。ただ事態の深刻さも、帰り道で浮き彫りになった。エイドポーン国王が治めるコルシーン国の北西部も、スライムたちに蹂躙(じゅうりん)されたらしい」


 イヒコの報告に、コッテンは顔から血の気が引いた。


「本当か」

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