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0014ラグネの過去02(2190字)

 日が高くなり、だいぶ暑くなってきました。僕は白いチュニックにズボン、両脚に豚革の靴という格好で、半日かけて荒野の端まで歩きました。


 そのときです。遠くから馬車の縦隊がこちらへ向かってくるじゃないですか。僕はこれを逃したら厳しくなるぞと考えて、慌ててその前方へ跳び出し、夢中で手を振りました。馬車は停まりました。


「どうした、坊主? こんなところで何をやってるんだ?」


 商人らしき中年が不思議そうに声をかけてきます。僕はここまでのいきさつを話しました。そのときからたどたどしい(しゃべ)り方でしたが……


「お願いです。僕を乗せていってください!」


 どうにかそう結びました。商人は複数人いて、どうやらこの馬車群は隊商のようです。少し話し合った後、彼らは僕が軽そうということで、別に構わないと応えてくれました。僕は歓喜と安堵(あんど)で泣き崩れ、心から彼らに感謝しました。あのときは本当にわらにもすがる思いでしたから。




 僕は隊商に拾われ、どうにか近くの街まで運んでもらいました。何かお礼がしたい、と申し出ると、商人たちは笑います。


「何、別に気を使わなくていいんだ。困ったときはお互いさま、だろ? それよりこれからどうするんだ?」


 そうです。とりあえず安全な場所まで連れてきていただいたものの、これからのことは何も考えていませんでした。将来まで助けてもらうわけにもいきませんし、何とかひとりで生きていかねばなりません。


 そのとき、商人のひとりが言いました。


「魔法は使えるか?」


 僕はその問いに「いいえ」と答えようと思って――ふと、『自分は回復魔法が使える』と気がついたんです。


 はい、おかしな話だと思うでしょう? それまで魔法のまの字も頭に浮かばなかったのに、指摘されたら急にそのことに思い至ったのですから。何というか、水をパンパンに詰めた皮袋の底を、短剣で切り裂いて、中身がいっぺんに落ちていく――そんな感じでした。呪文や手段が脳に急速に降ってきて、僕は確信を得たんです。


 僕には僧侶の素質がある、と。


「僧侶の魔法なら使えます」


「おう、本当かい? それじゃわしは肩が()っておるから、ためしに回復魔法をかけてくれんか?」


 商人の一人にそう要望され、僕は呪文を唱え始めました。まじないの文句は覚えていましたが、正しいかどうかは分かりません。あぶら汗をかきながら、どうか成功してほしい、そればかり念じていました。


 そして――


「『回復』の魔法!」


 僕はそうつぶやいて、彼の肩に手をかざしました。すると商人がため息を吐くじゃないですか。これは失敗したのかな、と僕は一気に不安になりました。


 でも、彼はこう言ったんです。


「ああ、気持ちいい。疲れが取れたよ。ありがとうな、坊主」


 成功した。その事実に一番びっくりしていたのは、魔法をかけた僕本人だったかもしれません。驚きが通り過ぎると、僕は自分の能力に随喜(ずいき)して、有頂天になりました。


「みなさん、僕を乗せてくださったお礼です。回復魔法で疲れを取りますので、ぜひお並びください!」


 商人たちや護衛の兵士たちは、「そいつぁいいや」とすぐに行列を作ってくださいました。僕は張り切って回復していきます。その隣で、さっき肩凝りを治した商人が声をかけてくれました。


「わしがおぬしに、魔法を使えるかどうか尋ねたのは、魔法さえ使えれば若くても冒険者になれるからさ。この街にも冒険者ギルドがあるから、後でわしと一緒に行こう。わしがおぬしを紹介してやる」




 こうして僕はギルドに登録し、『僧侶』として冒険者のひとりとなりました。これで食い扶持(ぶち)が稼げるようになったんです。その頃の僕は11、2歳ぐらいの体格だったんですが、誕生日を忘れているので、とりあえず『11歳』としておきました。


 本当にお世話になったその商人に、別れ際、僕は質問してみました。


「『アンドの街』ってご存知ですか?」


 商人ははて、と首をかしげました。しかし、それも長いことではありません。


「確かこのコルシーン国の北方、ロプシア王国の辺境にあったような……。何だ、行きたいのか?」


「いいえ、ただ聞いてみただけです」


 僕は愛想笑いでごまかしました。お金もないし、冒険者として活躍したいし、今は『アンドの街』と『ミルク』のことは忘れよう。そう思ったんです。


「じゃあな、坊主。人生は一期一会(いちごいちえ)だ。もう会うことはないかもしれないが、できればいつか酒を()み交わしたいな。……あばよ」


「ありがとうございました! お達者で……!」


 僕は目尻をぬぐいながら、手を振って彼と別れました。こうして僕の人生は始まったんです。




 それ以降は、ベテラン冒険者たちのパーティーに加入したり離れたりしながら、必死に生きてきました。魔物を倒したり、収穫を手伝ったり、落とし物を探したり、隊商を護衛したり……。あの商人がおっしゃっていたように、出会いと別れを繰り返しながら、僕は成長していったんです。


 やがて5年の月日が流れました。『アンドの街』を訪問するのは相変わらず後回し。僕は戦士スカッシャーさん、武闘家キンクイさん、魔法使いロンさんとパーティーを組んで、龍の巣に向かいました。2年前のことです。


 え? コロコさんはキンクイさんとお知り合いだったんですか? へえ、『夢幻(むげん)流武術』を教えてくださった恩人が彼女だったんですか。一緒に冒険したこともある、と。人の出会いは分からないものですね。こんなところで接点が出てくるなんて……

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