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0136隠者ジーラカ01(2140字)

(21)隠者ジーラカ




 元悪魔騎士のひとり、呪文書による無詠唱魔法の使い手であるケゲンシーは、ひとり街道を歩いていた。コルシーン国王のエイドポーンを袖にしてから、まだそれほど時は経っていない。


 ロプシア王国に戻る前に、コロコがこの街に来ていないか確かめておこう。彼女も冒険者なら、ここの冒険者ギルドに一時登録していてもおかしくはない。そう思い、ギルド会館へ足を運ぶ。


「いや、そんな子は来てないね」


 恰幅(かっぷく)のいいギルドマスターは、帳簿を調べてそう教えてくれた。空振りか、残念だ。ケゲンシーはがっかりしつつ、外に出ようときびすを返す。


 と、そのときだった。


「凄え、翼を生やした人間だぞ!」


「噂の『神の聖騎士』か!?」


「黄金色の羽だ!」


 ケゲンシーはその群集の声に、慌てて飛び出す。人垣を()った。いったい誰だろう? ラグネか、デモントか、タリアか?


 しかし予想は外れる。そこにはコロコと、彼女を背中から下ろして翼をたたむ、謎の少年の姿があった。コロコがこちらに気がついて、拳を構えて戦闘態勢を取る。


「ケゲンシー! まさかこのコルシーン国王都に来ているなんて!」


 ケゲンシーは大急ぎで手の平を振った。


「待ってください。戦う意思はありません! ほら、肌の色も元に戻っているでしょう?」


 コロコはじっとこちらを見た。やがてまぶたを数度開閉する。


「本当だ。青くない……」


「もう正気に戻っています。あなたに敵意はありません。どうか信じてください」


 コロコは腕を下ろした。雄弁なため息をつく。


「ケゲンシーはこのコルシーン国の王城城下町へ、何しにきたの?」


 ケゲンシーはほっとひと息ついて答えた。


「スライムの脅威を国王エイドポーンに報告するためです。こうしている間にも、あの魔物はどんどんこの大陸に侵入し続けています。その対策を万全に行なうよう、国王に働きかけたのですが……どうも腑抜(ふぬ)けていますね」


「そっか。本当に元に戻ったんだね、ケゲンシー」


「はい。いろいろ迷惑かけてすみませんでした」


 翼の少年が自己紹介した。


「僕はルミエルというんだ。きみは何者だい?」


 ケゲンシーはルミエルに対し、どう誤魔化せばいいかを考えた。


「ケゲンシーといいます。悪魔騎士で、コロコさんの――戦友です」


 あれこれ頭をひねった挙句、飛び出したのはそんな陳腐な言葉だった。しかしルミエルは怒らない。


「なるほど。……ラグネという人物を――『神の聖騎士』を知っているかい?」


 ラグネのことを聞かれるとは思わなかった。ケゲンシーはしどろもどろにならないよう、明快に答えた。


「存じています。今はロプシア王国の王城で、スライムたちに徹底抗戦しているはずです」


 コロコが数回まばたきした。ケゲンシーが言外にラグネの生存を(にお)わせたからだ。


「ケゲンシー、ラグネは……?」


「はい。そういえばコロコさんに伝言がありました。『ラグネは生きている』。以上です」


 その言葉を聞いたとたん、コロコはその場にうずくまって泣き始めた。隣のルミエルが合点(がてん)がいったとばかりにうなずく。


「嬉し泣きだね、コロコ。きみはラグネが好きだって、昨夜言っていたからね。好きな人の生存が嬉しいんだね?」


 コロコはむせび泣く。ルミエルの質問に答えられないぐらいの安堵が、彼女の胸に押し寄せているようだった。


「うう……うああ……」


 両手を顔に押し当て、ひたすら泣き続けるコロコだった。




 その後、コロコ、ルミエル、ケゲンシーの3人は、酒場に入って夕食を取ることにした。その程度の時間ぐらいは余裕があるだろうと、意見の一致を見たのだ。


 この街へ一緒に来たニンテン一家――ニンテン本人、娘のターシャ、孫のクナン――は、ちょうど仮の住居を借りたところだという。ラグネの100万カネーと、コロコの5000万カネーで、それはたやすいことだったらしい。


 そして最新情報を得るために冒険者ギルドの前まで飛んできたら、そこにケゲンシーがいた、というわけだ。結局ケゲンシーの情報が一番早かった。


 コロコは豆スープのいまいちな味に辟易(へきえき)しながら、ケゲンシーに尋ねる。


「どうして元に戻ったの? デモントとケゲンシー、タリア、大男の全員が青い肌になってたよね?」


 コロコは、冥界の魔女ルバマが自ら生け贄となってタリアを人間化したときも、悪魔騎士4人がニンテン邸で宙に魔法陣を描いたときも、全員が青い肌になっていたのを覚えている。コロコがケゲンシーの鼻骨を叩き折ったり、その後ラグネのもとに帰ってデモントに刺されたりした際も、青い肌は変わっていなかった。


 何が起きて、青い肌から元の肌色に戻り、またこうして普通に会話できるようになったんだろう?


「……おそらく、魔法陣を作り上げて、それが私たちの手を離れて独自に機能し始めたとき――悪魔騎士4人は『用済み』となったんだと思います」


「用済み?」


 ケゲンシーは疲れたような笑いを見せる。自嘲の色が濃かった。


「冥王ガセールの(めかけ)ルバマは、とにかくガセールをこの世界に呼び寄せることに執着していました。研究の結果、悪魔騎士4名をこちらの世界で用意し、その赤光で通路――魔法陣を開けばそれが可能になる、というところまで見極めました。彼女にとってはそこまででよかったんです。病身(びょうしん)を押して、タリアの糧となったことからも、それが推測できます」

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