表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

134/285

0134神の聖騎士もどき02(1575字)

「魔物じゃないのか!? 目玉があるぞ! ものすごい数だ!」


 木や岩、丘を乗り越え、覆い尽くし、魔物――液体生物(スライム)たちの進撃が続く。あれに飲み込まれたら、無事ではすまないだろう――コロコは恐れをなした。


「逃げて! 全力疾走して!」


 馬に鞭を与える。だが馬も生き物だ。次第に疲れが顕著(けんちょ)になり、足が鈍ってきた。


「だ、駄目です! 追いつかれます!」


 ターシャが悲鳴を上げる。スライムたちはわらわらと手を伸ばし、少しでも早くコロコたちを捕まえようとしてきた。黒い海はもう、すぐそこまで迫っている。


 せめて自分がおとりになって、ニンテン一家だけでも逃がせないか――コロコが悲壮(ひそう)な決意を固めたときだった。


「今助けるよ」


 (りん)とした声が上空から響く。舞い落ちてきた黄金の羽根が、コロコの鼻先をかすめた。見上げたとき、そこには金色の翼を広げた少年の姿がある。


「誰!?」


 ラグネと同じくらいの歳だろうか。ふわりとした黄金色の髪で顔を三方向から包んでいる。赤い瞳はラグネを思わせる大きさで、鼻筋はすっきりして通りがいい。薄い唇ときめ細かい肌で、うら若き美少女と勘違いさせた。その手には紅蓮の剣が握られている。


 彼はその武器を後方目がけて大きく振った。途端に真っ赤な火の壁が立ちのぼり、先頭のスライムたちが吹き飛ばされる。男の剣が白くなった。


 しかし後続のスライムたちは諦めない。炎さえ突き抜け、コロコたちを追ってきた。だが勢いは先ほどより()がれている。


 翼の男が指示した。


「この先に切り立った崖がある。そこまで行ったら僕が飛んで、きみたちを運び上げるよ。急いで」


 コロコは大声で問いかける。


「きみ、名前は?」


「ルミエル」


 ルミエルは、再び剣が赤く染まってきたのをみると、それを再び背後に振り抜いた。また業火(ごうか)の壁ができあがり、スライムたちがたじろぐ。進撃スピードはかなり衰えた。


 コロコとニンテン一家は崖に到着する。ルミエルが剣を(さや)に納めつつ()けてきた。


「誰から運ぼうか?」


 コロコとニンテンはハモる。


「ターシャとクナン!」


 こうしてまずは断崖絶壁の頂上まで、ターシャ親子がルミエルにつかまって移動した。その間、コロコとニンテンは岩を背に、押し寄せてくる黒い波濤(はとう)を恐怖の目で見つめる。


「お待たせ」


 ルミエルがすぐそばに着地した。彼は左右の腕でニンテンとコロコを抱きしめる。スライムの腕が、もうあとほんの少しのところまできていた。


「お預けだよ、スライムくん」


 ルミエルは舞い上がった。その足首に、スライムの手がかかりそうになった――が、寸前ですり抜けた。


 こうしてコロコたちは、スライムの脅威から一時逃げ延びた。




「改めてありがとう、ルミエル。はい、食事」


 焚き火の光を前に、コロコ、ニンテン一家、そしてルミエルは休息を取っていた。あれからひとつ谷を越えたことで、スライムたちの地鳴りも今は聞こえない。だが油断は大敵だ。警戒しながらの食事となった。


 コロコはパンと干し肉をルミエルに渡した。彼は遠慮なくいただく。


「どうも」


 ニンテンが水筒を回しながら尋ねた。


「きみはいったい何者だ? 『神の聖騎士』や『悪魔騎士』のような、元人形の人間か?」


「そんなところだよ。より正確にいうなら、僕は『神の聖騎士もどき』かな」


 ルミエルはやや自虐的につぶやく。コロコは目をしばたたいた。


「もどき? 『神の聖騎士』じゃなくて?」


「うん」


「何で私たちを助けてくれたの?」


 ルミエルはパンをかじった。


「人間を助けなくてはいけなかったから。スライムたちが急に鋭角的に南東へ向かったから、何ごとかと思って先回りしたら、きみたちがいたってだけだよ」


 ターシャがクナンに果物を食べさせている。


「何にしても私たちの命の恩人ですよ、あなたは。ありがとうございました」


 ルミエルはふっと微笑した。美しい笑みだった。


「助けてよかったなら安心した」


 コロコはそもそもの疑問をぶつける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ