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0130通報02(2231字)

 その二日後、ロプシア王国王都へマリキン国王イヒコたちがたどり着いた。その総数は1043名である。これを知ったコッテン国王の狼狽(ろうばい)たるや、半端なものではなかった。


「ほ、本当だったのか……!」


 イヒコはコッテンへ緊急会談を持ちかけてきた。兵士からそう報告されたコッテンは、ますます頑迷になる。


「あの女を殺して、口を塞ぐか……我が名誉のためにも……」


 どこまでも愚鈍なコッテンは、すべての兵に緘口令(かんこうれい)()き、近衛兵モリハにケゲンシーの始末を命じた。


 うけたまわったモリハも心のなかで呆れたが、主命は主命だ。彼は国王の居室を出て行った。さて、どう殺したものか……。問題の難解さに額へ脂汗が浮かぶ。


 それと入れ違えるように、イヒコ、デモント、ラグネ、タリアの4人が入ってきた。最年少11歳のタリアは、モリハの尋常ならぬ思案顔に気が付いて、首を傾げつつすれ違う。そうして、翼を持つもの3人がひざまずき、イヒコは壇上から下りてきたコッテンと握手する。


「このたびは聡明(そうめい)なコッテン国王陛下にお会いできてとても嬉しい。ありがとう」


「いや……こちらこそ」


「それにしても、ケゲンシーなる女魔法使いはいずこか? 二日ほど前にここへ到着しているはずなのだが」


 ここでコッテンは、その薄汚い舌で嘘を描いた。


「いや、知らぬが」


 その回答に、室内の全員がわずかに身じろぎする。膝をついたまま、タリアはそのようすを眺めた。そして、合点がいった、とばかりに頬をゆるませる。


 隣でひざまずいているラグネの手首をつかんだ。ラグネが驚いて小声で尋ねてくる。


「どうしたんですか、タリアさん」


「一緒に行こう」


「え?」


 次の瞬間、ラグネはタリアとともに、暗黒のなかに飛び込んでいた。天地のない闇の海。驚きのあまり大声を上げそうになるラグネの口を、タリアが手で塞ぐ。


「静かに」


 耳元でささやかれた。


 ラグネは鼻で息を吸って、吐いた。呼吸はできる。手足を曲げたり、指を伸ばしたりもできる。少し安堵した。


 タリアが少し笑みを含んだ口調で解説する。


「恐れないで。ここは影のなかだよ。これが私の能力、『影渡り』。ありとあらゆる影のなかを、音も立てずに移動できるんだ。手首をつかんだりして、じかに接触している人も一緒にね」


 へえ……。ラグネは素直に感心した。これがタリアの『悪魔騎士』としての力、か……


「たぶんケゲンシーは、来てないんじゃなくて、どこかに幽閉されているんだと思う。私の勘って()えてるんだよ。助けに行こう」


 ラグネは困惑した。漆黒の空間のなかで、イヒコ王とデモントが騒ぐ声が響いてくる。


「あれ、ラグネとタリアはどこに行った?」


「いつの間にか消えてるぞ!? おーい、ふたりとも! どこだ? どこにいる?」


 タリアは返事することなく、「こっちだよ」とラグネの手首を引っ張る。


「どこへ行くんですか?」


「牢屋といえば地下牢でしょ? さっきのわけありそうな兵士の影に潜り込むんだ。ついてきて」


 ラグネの前にいきなり光が満ちて、気が付けば廊下へ頭だけ出ていた。かがり火の作る物陰だ。


「いたいた。移動するよ!」


 遠くに『わけありそうな兵士』を見つけたらしい。タリアは低い声でつぶやくと、ラグネとともに再び暗黒の世界へと沈み込む。


 次に顔を出したとき、そこは『わけありそうな兵士』の背中だった。彼がたいまつを手にしているため、ちょうど背中が影になっているのだ。ふたりはまた闇のなかに隠れる。


「この人はどこへ行こうとしてるんですか?」


「たぶん地下牢。違ってたらまた別の人の影に渡るか、それとも影の世界を抜け出して自力で歩いていくか、そのとき考えるよ」


 しかしタリアの予想は裏切られなかった。兵士は地下牢の鍵束(かぎたば)らしきものを手にすると、天守閣地下1階へと下りていったのだ。そこには牢屋が並んでいる。いずれも鉄格子のついた小部屋だった。


「モリハさん! もう飯の時間か?」


「お願いだ、ここから出してくれ!」


「限界だ、罪を認めるからとにかく日の下へ連れて行ってくれ!」


 囚人たちが兵士――モリハに口々に叫ぶ。それを一切無視して、モリハはたいまつを手に奥へと進んでいった。その影のなかで、ラグネはタリアに尋ねる。


「ここはほとんどが影だし、自由に動き回れるんじゃないんですか?」


「ううん。私が動けるのは、太陽や炎の光を浴びてできた物陰だけなんだ。残念だけど……」


 真っ暗闇では影を移ることはできないのか。まあ、その場合はタリア自身も何も見えないわけだから、無意味といえばそうか。


 モリハが立ち止まった。たいまつを掲げて照らし上げた牢屋では――ケゲンシーがまぶしそうに目をすがめている。両腕を後ろに回した状態で、縄で縛られていた。


「ちょっと、まぶしいじゃないですか」


 彼女が抗議する。モリハは冷たい声で応じた。


「今鍵を開ける」


 鍵束を探る金属音が響く。目当てのものが見つかったのだろう、開錠(かいじょう)する音がした。


「えっ、ちょっと……」


 ケゲンシーが疑惑の声を上げたのも当然だ。牢内にモリハが入っていったのだから。


 タリアがラグネの手首を強く引っ張った。


「出るよ、ラグネ!」


 モリハの背中から飛び出す。狭い牢屋内では、ちょうどモリハが短剣でケゲンシーの首を突いたところだった。


「がっ……!!」


 ケゲンシーの首から血が噴き出す。ラグネは背中側に光球を出現させた。


「マジック・ミサイル!」


 光の矢が宙にひと筋の軌跡を描き、振り返りかけたモリハの腕を消滅させた。患部を押さえて崩れ落ちるモリハに構わず、ラグネは急いで呪文を詠唱する。

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