表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/285

0013ラグネの過去01(2083字)

(4)ラグネの過去




 ルモアの街のギルドマスターであるグーンは、ハラハ村の村長直筆のサインを鑑定した。魔法の一種らしい。やがて顔を上げた。


「うむ、本物だ。よく解決できたものだな」


 コロコはニッコリと笑う。テーブルに肘で頬杖をついていた。


「このコロコさま一行にかかれば何てことなかったよ」


「報酬はもらったのだな?」


「うん、おかげさまで。ね、ボンボ、ラグネ」


 ボンボとラグネはうなずく。ラグネとしては、街に戻ってきたことだし、酒を一杯やりたかった。


 同じくギルドマスターのスールドが、コロコから手数料を徴収する。


「この後はどうするんだ? また依頼を受けるか?」


「んーん、ちょっと休む。試したいこともあるからね」


 彼女は身を起こし、ふたりのギルドマスターに手を振った。


「じゃあね。行こう、ボンボ、ラグネ」


 ギルド会館を出ながら、ボンボが首をかしげる。


「『試したいこと』って何だ?」


「そりゃもちろん、ラグネの特訓よ」


 ボンボとラグネはハモった。


「特訓?」




 特訓って……。ラグネは呆れた。


「さあラグネ、光球を出して! 早く!」


「ちょっとコロコさん、『ひょっとしたら魔物よりも恐れられて、迫害されるかもしれないよ』とか言ってたじゃないですか。光球はなるべく使わないほうがいい、という意味にしか取れなかったんですけど……」


 空き地である。人の多いルモアの街にも、こんな開けた場所があったのか、とラグネは驚いていた。子供が駆け回り、大人が飼い犬と遊んでいる。


 コロコは片目をつぶった。


「光球じゃなくて、マジック・ミサイルよ、使わないほうがいいのはね。単に光球を背負うだけなら、魔法の一種としてみんな見逃してくれるわ」


 一転、真面目な顔で小声に切り替える。


「ラグネのあの力は絶対ものにしたほうがいいよ。これからもいろいろな依頼を受けるんだし、武器は多いに越したことはないわ。ねえボンボ?」


 ボンボは熱心に首肯(しゅこう)した。


「おう、おいらもそう思うぜ。ラグネには特訓しておいてもらいたいな」


 そのとき、6時課の鐘が鳴る。正午だった。ボンボは腹を撫でる。


「ふたりはここで修練しててくれ。おいらは市場に行って昼飯を買ってくる」


「うん、お願いするね、ボンボ。じゃ、始めよっか、ラグネ」




 ラグネは背中に光球が出るイメージを、何度も何度も頭に思い描いた。しかし、なかなか光球は発生しない。最初は気合いを入れて監督していたコロコも、やがてその場に座って足を伸ばし、適当に声を飛ばすだけになっていた。


「頑張れー。出せ光球ー」


 凄い飽きやすい人なんだな、と、ラグネはコロコ像を修正する。もちろんそんなことはおくびにも出さない。黙って立ち続け、光球が出るよう祈った。


「ねえ、そもそもの話なんだけどさ」


 コロコがあぐらをかいて尋ねてくる。


「マジック・ミサイルみたいな、敵を攻撃するような魔法は、魔法使いの特権だよね? 何で僧侶のラグネにあんな強大な力が眠ってるの?」


 確かにそれは不思議だった。『魔法使い』が攻撃魔法を、『僧侶』が回復魔法を独占的に使い、両者の魔法をバランスよく使うのが『賢者』。それが冒険者ギルドに登録されたものたち共通の特徴であり認識だった。


 ラグネは自分が賢者だったらどれだけよかったか、とときどき考える。しかし賢者になるには先天的な素質が必要らしく、あいにくラグネにはそんなものはなかった。


「ねえラグネ、きみはどんな経緯で冒険者になったの? 邪炎龍バクデンをマジック・ミサイルで倒したときはどうだったの? よかったら話してくれない?」


「光球は?」


「それは後回しで」


「はい……」


 ラグネはその場に腰を下ろし、両膝を抱えた。そして、たどたどしいながらも自分の過去を話し始めた。




 僕は、実は過去の記憶がないんです。どこで生まれたのか、どんな幼少期を過ごしたのか、まったく覚えていません。ただ気がついたときには、荒野にひとり立っていました。周りは多少の草木が生えている以外何もありません。人の気配も、動物の気配も、まるでなかったんです。ただ岩と土とが四方八方に敷かれていました。


 何でその場所にいたのか、誰に服を着せてもらったのか、さっぱり分かりませんでした。ただ目の前に、派手な服を着た白骨死体が置かれていました。死後だいぶ経っているのか、皮膚も肉も残っていない、完全な白骨でした。


 僕は恐ろしいのと心細いのとで、涙を抑えられませんでした。誰か来てくれないかな、とそればかり願って、その場を動けませんでした。とにかく助けを待ったんです。


 そして何でもいいから、何か自分の手がかりになりそうなものを思い出そうと、僕は頭をフル回転させました。そしてふと、3つの単語だけは覚えていることに気がついたんです。


 ひとつは『ラグネ』。僕はこれが自分の名前だと、どういうわけだか確信を得ました。


 もうふたつは『アンドの街』と『ミルク』。アンドの街は故郷なのか、それとも別の何かなのか、はっきりしません。ミルクは飲み物だか人名だか地名だかさっぱりです。


 やがて僕は、ここにこうしていてもただ飢え死にするだけだ、誰か助けてくれる人を自分の足でさがしに行こう、と覚悟を決めました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ