0119生け贄03(2148字)
「ええと、整理しよう。冥王をこの世界に呼び込むためには――」
1.赤い宝石『核』を手に入れる。
2.『核』を人形の心臓部に埋め込む。この際、目的はあくまで『生きた人形』を作ることでなければならない。赤い宝石が脈動し、人形が自我を得たら成功。
3.『生きた人形』は強烈な孤独を受けると、魔力あるものを呼び寄せる。その命と魔力を奪って人間化する。
4.人間化した人形は、『悪魔騎士』の力に目覚める。
5.『悪魔騎士』4人がそろうことで、冥界より冥王ガセールが呼び出せる。
「――とまあ、こういうことだったんだろう。それをケゲンシーは、4の段階のデモントやラグネに『神の聖騎士』がうんぬん、と吹き込んで、5の真の目的を隠していたわけだ。元凶のルバマが死した今、首魁はケゲンシーだ。何としても冥王ガセールの召喚を食い止めなきゃな」
ボンボはふと思いついた、とばかりにアイデアを語る。
「ニンテンに、その『生きた人形』は『悪魔騎士』を生み出すために使われる、と教えたら、簡単に計画をくじくことができるのか。心に不純物が混じるから」
「いやいや、そんなことしたらニンテンさんは用済みになって殺されちゃうよ。というか、告げに行った私たちも生きて帰れないわ」
「まあそうか。とりあえず、ルバマのことはもういいや。これからを考えようぜ」
コロコとボンボはそろって悩んだ。
「どうやってケゲンシーから血液を――ラグネの解毒剤を――奪い取ろう? 私たちの力じゃ無理よ」
「そうだな……」
ボンボは何か思いついたのか、人差し指を立てた。
「隙があるとすれば、あの冥王の魔法陣を宙に描き出すときだ。あのときラグネを含めた4人は、まったくの無防備になって、空中に赤い光線を放っていた」
「うんうん。それで?」
「ケゲンシーとデモントはニンテンに、『生きた人形』をもう一体作らせるだろう。史上5体目、ニンテンに限っていえば4体目のそれをな。そしてそいつを人間化させるはずだ。そうして『悪魔騎士』が再び4人になったとき、今度こそとばかりに魔法陣を天に発生させる……」
コロコは理解した。篭手をかち合わせる。
「なるほど、そのときに私がケゲンシーをぶん殴ればいいのね」
「ああ。鼻骨を狙え。うまく折れば大量出血するはずだ。それを篭手に塗りたくって、ここに――ラグネが寝ている場所に戻ってくるんだ」
ボンボは難しい顔になった。
「ただ、ニンテンがいつ4体目を完成させるか。それと4体目を人間化する際、ケゲンシーたちがさっきみたく街の外に出てしまわないか。そのふたつが心配だぜ」
「翼を使って飛んでいかれたら、もうその時点でおしまいってわけね」
「ああ。ラグネの命は諦めるしかない」
コロコは目の前が真っ暗になる思いだった。しかしできるだけのことはやろう、と即座に頭を切り替える。
「ちょっとニンテンさん宅を偵察してくる。ボンボはここで待ってて」
「分かった。気をつけろよ」
こうして月の冴え渡る夜に、コロコはニンテンの家の裏で耳をそばだてていたのだ。
人形ができあがるのは明け方。取りあえずその情報だけでも救いだった。そのあたりなら、まだラグネは息があるはずだ。コロコはいったんラグネとボンボのもとに戻ろうと、腰を浮かしかけた。
そのときだ。
「何してるの、お姉ちゃん?」
小声でささやかれ、コロコは心臓が飛び出すかと思った。慌てて自分の口を塞ぎ、上げかけた悲鳴を押し殺す。すぐそばに、フード付きローブ姿のタリアが立っていた。いつの間に忍び寄られたのだろう? 考えごとをしていて不覚にも気づけなかった。
タリアは聞こえなかったと勘違いしたのか、もう一度問いかけてきた。
「何してるの?」
コロコは緊張でぎこちなく返事した。
「ちょっと、夜のお散歩を……」
「そうなんだ」
タリアは無邪気に微笑む。あれ、この子、私に敵意を抱いていない。青い肌から『悪魔騎士』と化していることは分かるが、デモントやケゲンシーのように殺伐としてはいなかった。
「タリアはここで何してるのかな?」
心臓がドキドキと脈打っていたが、コロコは何とかそれだけしぼり出す。彼女の不興を買えば、デモントやケゲンシーに告げ口されるに決まってる。そうなればコロコの命など風前の灯だった。
タリアはあくまで小さい声で答える。
「ケゲンシーから外の庭で待ってるように命じられて、そうしてたんだけど……。暇だったから、ついぶらぶらしてたの」
くすりと笑った。コロコは少し安心する。この子は大丈夫かな。でも『悪魔騎士』なら、ケゲンシーの呪文書やデモントの三叉戟のような、何か特別な力を有しているかもしれない。油断大敵だ。
ともかく朝まですることはない。ラグネが心配だ。いったん戻ろう。
コロコが物陰から身を起こしかけた、そのときだった。
「どうしたタリア。誰かいるのか?」
デモントが家の窓から問いかけてきたのだ。コロコは心臓が止まりそうだった。問われたタリアがひとつうなずくだけで、自分は殺される……
「ううん、私ひとり」
タリアはそう答えてくれた。デモントはそれきり関心を失ったのか、窓の鎧戸を閉める。コロコはその音で、命拾いしたことを知った。
「何でかばってくれたの?」
小声で尋ねると、タリアは微笑した。
「私とまともに話してくれた初めての人だったから、死んでほしくなかったの」




