0118生け贄02(1990字)
かといって冒険者ギルドを頼るわけにもいかない。頼っただけ死者が増えるのみだ。
ボンボは呼び出した魔物に質問する。博識を頼ったのだ。
「『悪魔騎士』ってのは何だ? 知らないか、吸血鬼」
吸血鬼はにやりと笑った。
「冥王直属の魔人です。この人間界に4人そろえば、その力で冥界の王ガセールさまを呼び出せる魔法陣を描けるらしいです」
コロコはラグネの額の汗を白布でぬぐった。彼の呼吸は荒く、目は閉じられたままだ。かなり苦しそうで、できれば代わってあげたい。
「でも、失敗したよね? ラグネが元の肌色に戻って、魔法陣は消滅した――」
「そうですか。では、おそらくラグネさまは本当の『神の聖騎士』であり、『悪魔騎士』の呪縛から逃れたのでしょう」
コロコは、ルモアの街のスールドから聞いた話を思い出した。ラグネがまだ『生きた人形』だったころ、スールドは妙な夢を見た。それは天使が人形のラグネを抱きしめ、「『神の聖騎士』として迎える」と話す、というものだった。
あれは本当で、ほかの3人には天使の声はかけられなかったのだ。だからラグネだけ僧侶の資質を得ていた――
ボンボが質問を続ける。
「ルバマって人物を知ってるか? 白い長髪で褐色の肌の、痩せた女なんだが」
ケゲンシーは「ルバマさま、お命ありがとうございます」と話していた。しかし、たったこれだけの情報では、いかな物知りの吸血鬼といえども……
「ルバマさまですか。存じております」
知ってるんだ。
「ルバマさまは冥王の妾のひとりであり、優れた知恵ものとして知られております。年齢は確か9267歳で、赤い宝石『核』の研究に取り組まれておりました。ただ人間界に居すぎて病にかかり、余命いくばくもなかったと聞いています」
ボンボがさらに問いかけた。
「もっと詳しく教えてくれ」
「承知しました」
吸血鬼は語りだした……
ルバマは冥王ガセール陛下の愛人のひとりだった。だが特に秀才で、陛下を冥界から人間界へ移動させる術を考案した。
それは、赤い宝石『核』を使って人間界に『悪魔騎士』4人を誕生させ、その力で巨大魔法陣を描かせる、というものだった。それを通せば、力の強すぎるガセール王でも生者の世界に君臨できるのだ。
しかし難点があった。人間の傀儡子に『生きた人形』を作らせ、それを人間化させるという方法でしか、『悪魔騎士』は生み出せない、ということだった。
人間の文明が進展したころ、ルバマは単身用の魔法陣で人間界に降り立った。そして特に優れていた女魔法使いフォーティに、『生きた人形』を作り出す方法を伝授する。あくまで真の目的――『人間化』による『悪魔騎士』の誕生を悟られないよう気をつけて。
そうして、フォーティに赤い宝石を数個渡す。赤い宝石『核』は冥界の辺境で奇跡的に取れるほか、人間界にダンジョンを作った際にごくまれに産出されるという、とても貴重なものだった。
こうしてルバマの計画は順調に進んでいった――かにみえた。しかし同時に、ルバマの体は日に日に衰えていったのだ。冥王のような強靭な肉体を持たないルバマは、人間界の空気で汚染され、病を抱えてしまっていた。療養のため、ルバマは一時冥界に戻る。
かくして1体目『デモント』と2体目『ラグネ』の、誕生にも成長にも立ち会えなかった。このままではガセールさまの不興を買ってしまう、と焦ったルバマは、無理をおして再び人間界へおもむく。
そうして3体目の『ケゲンシー』では、ルバマはそれをニンテン宅より盗み取った。魔法使いゴルドンの命と魔力を奪って人間化させると、『悪魔騎士』4人をそろえる真の目的を教え、それまでは『神の聖騎士』を名乗って活動するようそそのかした。
その後、ケゲンシーは命令どおりに動く。デモントとラグネへの接触と援助、そして洗脳を行なった。
ルバマはそのころには、すでに死にかけだった……
「私が存じているのは以上です」
長広舌に、コロコもボンボも呆れていた。
「めちゃくちゃ詳しいじゃない」
「ええ。何せ私の生みの親ですから」
「えっ、そうなの?」
吸血鬼は冷笑した。
「人間でいうところの親子関係ではないです。ゴブリンやオーク、翼竜や巨人などと同様、存在を作り出された魔物たちのひとり、ということです」
「ああ、そういうこと……」
ボンボはあぐらをかいて頬杖をついた。
「ふうん。で、最後に4体目の『タリア』では、自らその糧となって死んだ――ってわけか」
「そうなのですか?」
「おう。もういいぜ、ありがとう。戻れ、吸血鬼!」
「はい」
吸血鬼は魔法陣に引っ込んだ。コロコとボンボは今の話をじっくり咀嚼する。
「ルバマはあらかじめケゲンシーと打ち合わせをしてたんだ。だからあの森にルバマはいたのよ。『タリア』を――4体目を持ち去ったら、そこで放置する。『タリア』が魔力あるものを呼び寄せ始めたら、一気に近づいて命と魔力を奪い去られる。そう計画してあったのに間違いないよ」




