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0011ゴブリン討伐03(1957字)

「おっと」


 コロコがパッと()びしさる。ボンボが目を凝らした。


「あれは……『ホブゴブリン』!」


 ホブゴブリン。確かゴブリンの上位種族で、その強さは桁違いだとか……。ラグネは長年冒険者稼業をしているが、本物を見るのは初めてだった。それほど珍しいのだ。


 ホブゴブリンは短い剣を手に、ゴブリンたちの頭をはたいていた。


『こらお前ら、ちゃんと戦え。逃亡など許さん。……さて、侵入者ども』


 鋭い眼光と矢じりのような鼻が威圧感を放つ。ラグネはそれに気圧(けお)されて半泣きになった。


『この俺が相手してやる。いくぞ!』


 コロコは呼吸を整えると、「勝負!」と叫んで相手に飛びかかった。その拳打が大鬼に撃ち込まれる。だがそれは、本当にぎりぎりの距離でかわされてしまった。


「ぬんっ!」


 魔物の右の蹴りが、弧を描いてコロコの腹に炸裂した。重量感のある一撃だった。


「ぐあっ!」


 武闘家の少女は吹っ飛んで、壁に激突して跳ね返る。そこへホブゴブリンの短刀が閃いた。ラグネの目の前で、コロコの右腕が縦に切り裂かれる。


「うぐ……っ!」


 血しぶきが舞い上がり、コロコはゴブリンの死体の上に倒れこんだ。ゴブリンたちが歓声を上げる。ボンボがすでに3体目の召喚を済ませていた。


「『召喚』の魔法! 行け、『鎧武者』! ホブゴブリンを倒せ!」


 どうやらホブゴブリンを目の当たりにして、急きょ呼び寄せたらしい。鎧武者は敏捷(びんしょう)に大ボスへと突きかかった。しかし相手はあざ笑うようにその突きを弾く。


 そこへスパイダーの糸が飛んできた。魔物はゴブリンの死体を片手で持ち上げ、それを盾とする。そしてそのまま蜘蛛へと投げつけた。ペシャ、という異音を発して、スパイダーは潰れてしまう。


 コボルドと鎧武者が同時に大鬼へと斬りかかった。しかしホブゴブリンは巨躯に見合わず素早くて、たちまちのうちに両者を斬り捨てる。あまりにも鮮やかな手並みだった。


 死んだスパイダー、コボルド、鎧武者は、黒い霧となって消えてしまう。


『ギャハハハッ!』


 親分の圧倒的な強さに、ゴブリンたちが追従(ついしょう)の笑い声を上げた。大ボスは彼らの頭をはたいて回る。


『ほら、人間たちをやれ。もたもたするな』


 ボンボが新しい布を広げて次の魔物を召喚しようとするが、ゴブリンにぶん殴られて失敗した。右腕の激痛に苦しむコロコが、小鬼たちに足蹴(あしげ)にされる。


 ラグネはその様子を前に、何もできない。ホブゴブリンの支配的な強さが、視覚から脳へと焼き付けられたようだ。これじゃいくらコロコやボンボを回復しても、勝てるわけがない。


 3人とも殺される……! その可能性に思い至ったとき、ラグネは震え上がって頭が真っ白になった。


 ゴブリンがラグネにも攻撃を仕掛けてきた。腹を殴られうずくまったところへ、硬い棍棒でめった打ちにされる。


「い、嫌だ……っ!」


 ラグネは頭をかばいながら激痛に耐えた。いや、僕個人の生死なんかどうでもいい。コロコとボンボだけは助けてあげたい。僕を助けてくれて、仲間にしてくれたふたり。多大な恩がある親友ふたりを、むざむざ殺されてなるものか――


 小鬼たちの殴打は続く。痛みに発狂しそうになりながら、ラグネはあの力――マジック・ミサイル・ランチャーを想起した。もう仲間が死ぬのは嫌だ。死んでからじゃ遅い。アリエルさんの二の舞だけは避けるんだ、絶対に。


 絶対に――!


「うわあああーっ!」


 出ろ、光球。今出なくて、いつ出すんだ。出ろ、出ろ、出ろ――!!


 そのときだった。


 殴打がやんだ。ふと見れば、洞窟内が昼間のように明るくなっている。魔物たちがこちらへ一斉に視線を向けて、あっけに取られていた。


 出た。背中の光球が、本当に出た。ラグネは血にまみれた額をぬぐうと、ありったけの大声で叫んだ。


「行け、マジック・ミサイルーっ!」


 次の瞬間、光の球から輝く矢の濁流がほとばしり、洞窟内を白光で埋め尽くした。ゴブリンというゴブリンが紙切れのように穴をうがたれ、次々と死んでいく。ホブゴブリンも抵抗すらできず、あっという間にただの肉片と化した。よくしたもので、マジック・ミサイルは味方を完璧によけている。


 やがて光の洪水は収まり、背中の光球も消え去った。見える範囲で生きているのは、コロコとボンボだけだ。ふたりとも瀕死である。


 ラグネは自身の出血でくらくらしながらも、大急ぎで回復魔法を唱えた……




「そっか、私たちが死ぬ前に光球を出せたのね」


 魔法で全快したコロコは、屈託なげに笑った。ボンボも治療され、生き返ったような顔つきだ。


「助かったぜ。……というか、大丈夫かラグネ。このポーションを飲んでおけよ」


 ひとり傷だらけのままのラグネだった。回復魔法は自分自身にはかけられない、という魔法の持つ特性ゆえである。ラグネはありがたく治療薬の入った水筒を受け取ると、ふたを開けてごくごく飲んだ。頭や背中の痛みが引いていく。

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