表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

109/285

0109傀儡子ニンテン02(2085字)

「あっと、ええと、そのー……。そ、そうです、これを!」


 ラグネは背負い袋を下ろすと、なかから赤い宝石を取り出す。


「これをお渡しにきました」


 それまで硬質な態度を取っていたニンテンが、品物を見るなり愕然と口を開けっ放した。顎が外れそうなぐらいだ。


「それは『核』!」


 ようやくそれだけ言うと、安楽椅子からゆっくり立ち上がった。本が開いたまま地面に落ちるが、そんなことなどもはや気にしていないようだ。杖をつきながらよろよろ歩いて、ラグネのもとまで近づいてきた。


 震える手がラグネの掌から赤い宝石をつまみ上げる。ニンテンはじろじろと、それを太陽に透かしたりして検分した。


「間違いない、これは『核』だ。ええと……」


「ラグネです」


「ラグネくん、きみはこれをいったいどこから?」


 ええと、教えちゃいけないのは『人間化』『神の聖騎士』だったっけ。これはオーケーだよね……


「ダンジョンのなかで発見しました」


「ほう……」


 茶色い双眸(そうぼう)に再び猜疑心(さいぎしん)がよぎった。


「この赤い宝石をわしの元に持ってきた、ということは、当然わしが『あれ』を作れることを承知の上だろうが……。問題は、それを誰から聞いたのか、だ」


 ええと、「デモントさんとケゲンシーさんから聞きました」じゃ駄目だよね。ふたりが人間化したことがばれるから……。ラグネは最適な返答を求めて再びうろたえた。


「どうした? 答えられないのか?」


 まずい。ニンテンさんがますます疑いの色を濃くしていく。何か言わなくちゃ。何か……!


 そこでコロコが間に入ってくる。


「フォーティさんからです」


「ほう」


 ニンテンはフォーティの名前に、頬をはたかれたような顔をした。


「わしの母ちゃんか。生きていれば97歳だが、もう死んでいるのだろう?」


「分かりません。旅芸人一座に加わったのち、最期はひとりで終わりたいと、どこかへ飛んで行ってしまいました」


「母ちゃんらしいな」


 ラグネは内心安堵した。ナイスフォローと、コロコに頭を下げたいところである。確かにフォーティが息子のニンテンに『生きた人形』の製法を教え、さらに赤い宝石まで託したのだから、これは満点の回答といえた。


 もっとも事実ではない。ラグネもコロコもボンボも、フォーティに会ってなどいないのだから。


「ではきみらは、母ちゃんからわしの話を聞いてやってきたのか。で、『あれ』を作ってほしいと?」


 難局は去った。そう信じたラグネは、元気一杯に返事した。


「はい、『生きた人形』を、ぜひ!」


「『生きた人形』……?」


 再び曇った相手の表情を前に、ラグネは固まった。何かまずいことをいっただろうか。ニンテンが両腕を組む。


「わしは『あれ』としか言ってないぞ。それを『生きた人形』ととらえたのか。ふうん、そうか」


 ニンテンの眉間に縦じわが走った。


「確かにわしは『生きた人形』を作った。一体目の『デモント』に関しては、フォーティ母ちゃんも目撃している。だから彼女から伝え聞いたのなら、別にきみが知っていてもおかしくはない。……だが」


 ラグネににじり寄る。鼻同士がくっつきそうだ。


「フォーティ母ちゃんは『生きた人形』について口外しないよう、わしに忠告していた。何といっても、不気味な産物には違いないからな。彼女自身も他人に言い触らさないと(かた)く誓っていた。なのに、何できみは『生きた人形』のことを知っている? 誰に教えられたというんだ? おかしいだろうが!」


 凄まじい形相で迫られたラグネは、声ひとつ上げることができない。恐怖と狼狽(ろうばい)で口元は引きつり、脂汗が額からだらだら流れた。


「どうした! 理由を言ってみろ! さもなければ酷い目に()わすぞ!」


 ニンテンの剣幕にたじたじとなり、ラグネは思わず口をついて叫びそうになった。だって、僕は元『生きた人形』なんですから!――と。


 そこで助け舟を出してくれたのはボンボだ。


「じいさん、『生きた人形』を作れたのはあんただけじゃねえぜ。ほかにもいたんだ。旅芸人リブゴー一座のミルクって女がそれだ」


 ニンテンの刺すような視線がボンボへと()れた。ラグネは心のなかでほっとひと息つく。


「ミルク? そいつも『生きた人形』を作れたっていうのか?」


「ああ。あんたの母ちゃんである魔法使いフォーティに、赤い宝石をもらって、製法も教えられてな。ミルクに聞いた話じゃ、きっちり完成させて、そいつとしゃべることもできたそうだ。なっ、ラグネ」


「は、はい」


 ニンテンは組んでいた腕をほどき、再び杖をつく。その双眸(そうぼう)になごやかな色が戻っていた。


「そうか、わしのほかにも……。ならば『生きた人形』を知っていたとしてもうなずけるな。そういえば母ちゃんは『核』をひとつ持っていってたし、誓いを破って他人に教えることもあるか。……で、何か?」


 ニンテンは口髭(くちひげ)をつまんで引っ張った。


「わしに新たな『生きた人形』を作れ、と?」


 ラグネは危機を逃れた安心感から、つい大きく返事してしまった。


「はい! お孫さんのクナンさんのためにも!」


 ニンテンがまた険しい顔つきになり、唾を飛ばしながら怒鳴った。


「何でわしに孫がおり、その名前がクナンだと知っておるんだ!? きみらはわしのことをあらかじめ調べたのか!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ