表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

108/285

0108傀儡子ニンテン01(2028字)

(16)傀儡子(くぐつし)ニンテン




 翌日は鮮やかな晴れだった。何の悩みもなさそうな空に、ラグネは少しいじけてみせる。


 冒険者ギルドの宿で、男女別れて雑魚寝(ざこね)した一同は、またここでお別れとなった。


「がははは! それじゃ達者でな、コロコ、ボンボ、ラグネ、デモント、ケゲンシー!」


 スカッシャーが大剣を背中に(かつ)ぐ。哄笑する彼に、妻のキンクイが寄り添った。


「あんたは悩みがなくていいわね。じゃあねコロコ、体に気をつけてね」


 コロコは少し涙ぐんでいた。人生の、武術の師匠たるキンクイとの別れが、やはり辛いらしい。


「打倒魔王アンソーでみんなと再会できたのは嬉しかったけど……。こうなると寂しいです」


 ゴル、ヨコラ、チャムの3人は、ひとまずラアラの街に戻るそうだ。そしてそこで冒険者を続けつつ、今後のことを考えるという。


「じゃあな、みんな。3年後の『昇竜祭』武闘大会のときは、また来てくれよな。今度こそ我が優勝する!」


 ゴルの威勢のいい言葉に、ヨコラが呆れる。


「まったく()りない奴だな……。どうせまた一回戦で敗退するんだろ?」


 一同が爆笑した。ゴルが「ひでえな」と頭をかく。


 チャムがくすくす笑っていた。


「みなさん、またお会いしましょう。私もいい人を見つけたいと思います」


 ボンボが深くうなずく。


「チャムならきっと良縁(りょうえん)があるぜ。おいらが保証するよ」


「はい!」


 ラグネが「あの……」と切り出した。


「みなさん、ここに924万カネーがあります。そのうち800万カネーを分けて持っていってください」


 ヨコラが目を丸くする。


「えっ、いいのか?」


「はい、今のところ特に使い道がありませんから。皇帝ザーブラ陛下が帰還したら、魔王アンソーの賞金残り9000万カネーを受け取ることですし」


 キンクイがやれやれと頭を振った。


「まだラグネから預かった500万カネーが残ったままなんだけど……」


 そういえばそうだ。『龍の巣』を(たい)らげた際の報酬だった。


「それも含めて、どうぞご自由にお使いください」


「我欲がないのね」


 ゴルが指折り数える。


「ええと、5人で800万を分けるから、ひとり……」


「160万カネーです」


 チャムがすぐに答えを弾き出した。ヨコラが遠慮なくラグネから受け取る。


「ありがとう。大切に使わせてもらうよ」


「はい、お願いします」


 こうしてお金の分配も終わった。名残(なごり)惜しいが、もう行かなくては。


 ラグネは5人にお別れを告げると、手を振りながら歩き出した。


「またお会いしましょう! それまでお達者で!」


 デモント、ケゲンシー、コロコ、ボンボも同様に手を振る。スカッシャー、キンクイ、ゴル、ヨコラ、チャムの5人は、笑顔で両手を振って送り出してくれた。




 さて、傀儡子(くぐつし)ニンテンはケベロスの街に住んでいる――引っ越ししていなければ。それはロプシア王国の西、マリキン国にあった。イヒコ王の領土だ。


 跳ね橋を渡り終えて城外に出ると、デモントがボンボを、ケゲンシーがコロコを、ラグネが荷物を抱え、黄金の翼を一斉に広げた。城門や歩廊の兵士たちが感嘆の声を上げる。


 3人は西へ向かって飛翔していった。途中で食事を取ったり地図とにらめっこしたりしながら、どうにかケベロスの街に到着する。ラグネが俯瞰(ふかん)した感じ、結構大きい街だった。


 目立たないように、近くの森に下りて羽を畳む。以後は歩きで目的地に到着した。辺りは夕暮れ間近といったところだ。


「それじゃ、俺さまとケゲンシーは宿屋で待ってるから、ラグネとコロコとボンボでしっかり『生きた人形』をニンテンに作らせてくれ。頼んだぜ」


 そういって、丸くて赤い宝石をひとつ、ラグネに渡した。ラグネは真紅に透き通る球を見つめる。


「あれ? ふたつありませんでしたっけ?」


 ケゲンシーが簡明に答えた。


「ニンテンには、あくまで孫のクナンのために『生きた人形』を作ってもらいます。ふたつも作ってくれとは頼めないでしょう?」


 それもそうだ。ラグネたち3人は納得した。




 その後、道行く人に人形職人のニンテンについて聞いて回る。今年60歳だそうで、今も健在らしかった。現在は広場近くの自宅で毎日を過ごしているようだ。まずはほっと一息つくラグネたちだった。


 教えられたとおりのルートを辿ると、わりかし大きな木造の平屋が発見された。あれがニンテン宅だ。ふと見れば、家の前の安楽椅子に深々と座り、本を読んでいる老人がいる。もしかして……


 ラグネはくつろいでいる彼に声をかけた。


「あの、すみませーん……」


 老人がこちらへ視線を向ける。しわ深く年老いていながら、彫りの深い眼窩(がんか)で茶色い目がぎらついていた。それさえなければ、年齢相応の外見と簡素な衣服で、ただのいち職人に見えただろう。


「何かね?」


「ニンテンさん、ですか?」


「いかにもそうだが。……きみらは?」


 ニンテンの不審そうな瞳ににらまれ、緊張しつつお辞儀した。


「初めまして! 僕はラグネといいます! こちらは親友のコロコ、ボンボです!」


 (おもて)を上げると、ニンテンと目線が交錯(こうさく)する。冷厳な光に圧倒されて、ラグネは瞬間パニックに(おちい)った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ