0106話し合い02(1885字)
「どうか、どうかメタコイン王国はわしの采配で……」
「ならぬ。兵よ、こいつとその仲間の大臣たちを引っ立てい!」
兵士たちがモグモたちを連行していく。
「どうかお慈悲を! お慈悲を……!」
「たわけが……」
やがて雑音は聞こえなくなった。
ザーブラは酒杯を干すと身を起こし、あらかじめ用意してあった書類をアーサーに手渡す。
「すべて俺の署名がしてある。それと我が軍の2分の1を駐屯させ、貢納20億カネーは以後廃止だ。あとはお前の才覚で上手く難局を乗り切れるだろう。頼むぞ、アーサー」
「ははぁっ!」
アーサーが立ち去らないので、ザーブラは首を傾げた。
「どうした?」
「はい、その……。ラグネはどうなったのでしょうか?」
ザーブラは破顔一笑する。
「安心しろ。魔王アンソーを倒してくれたので、もう自由にしてある。話によれば南方へ海水浴に出かけているそうだ」
「そうでしたか」
アーサーは口角を上げて安堵の吐息をした。
「あの少年は不思議です。とてつもない力を持っているのに、まったく偉ぶるところがない。どれだけ汚れても染まらぬ白布とでもいいましょうか……」
「そうだな。だがそれだけに、他人に利用されやすいといえるがな」
「たとえば陛下が利用したように?」
ザーブラは哄笑した。
「ははは、そのとおりだ。……では、俺はザンゼイン大公領に戻る。後は任せた」
「御意!」
大公の城――今では帝城だ――の城下町では、魔王アンソーを倒した喜びによる乱痴気騒ぎが、いまだ治まっていなかった。
ラグネたちは黄金の翼で静養先から戻り、置いてけぼりの『龍殺し』スカッシャーと会ったところだ。彼は豪快に笑った。
「がははは、それがしは孤独で寂しかったぞ!」
彼の妻の『夢幻流武闘家』キンクイが、頬にそっと口付けする。
「ごめんなさい、スカッシャー。もうひとりぼっちにはさせないから」
「がははは、嬉しいぞキンクイ!」
そのいっぽうで、『怪力戦士』ゴルと『魔法剣士』ヨコラが腕を組んでいちゃいちゃしていた。
「なあゴル、どこの街に新居を構えようか?」
「そうだな、やっぱり『昇竜祭』が開催されるラアラの街に住みたいがな。でも土地代高そうだな……」
『神の聖騎士』デモントとケゲンシー、賢者チャム、僧侶ラグネ、『夢幻流武闘家』コロコ、魔物使いボンボは蚊帳の外だ。ボンボが毒づいた。
「まったく、熱くてうっとうしい奴らだ。おいらたちひとりものに堂々と見せ付けやがって……」
ラグネは金袋の中身を数えている。
「ひい、ふう、み……まだまだありますね。どうですか? このまま10人全員で酒場で飲むのは」
コロコが陽気に手を挙げた。
「賛成! 久しぶりに飲もうよ!」
デモントが頬をゆるめ、ラグネの肩に腕を回す。
「当然おごってくれるんだよな? 他人の金で飲む酒はうまいからな」
「ええ、いくらでも」
「そいつぁありがてえ」
こうして一同は酒場に入った。すると、聞いたことのある声が響いてくる。
「俺は転進して、その場を弟子のラグネとその取り巻きに任せた。すると奴は、俺の意を酌んで魔王を退治したってわけだ。俺の助力で習得したマジック・ミサイル・ランチャーでな」
「さすが勇者さま! ほれほれお前ら、拍手せんか!」
勇者ファーミと、その腰ぎんちゃくのコダインだ。酒場が拍手と歓声の音に満ちる。
まだあんなことを言ってるのか。ラグネは馬鹿負けした。
「ほかの店にしましょう」
「ぷはーっ! やっぱり久しぶりの酒はうめえな!」
ボンボが快哉を叫ぶ。一同は複数の卓につき、さっそく美味を満喫していた。ラグネの卓にはデモントとケゲンシー、コロコがついている。
これはラグネがそう希望したからだ。酒をひと口飲んで喉をうるおしてから、早速本題に入った。
「今、僕らには赤い宝石がふたつあります。これは『生きた人形』の心臓、『核』になるものです」
3人がうなずく。それを確認してからラグネは続けた。
「冥王ガセールがこの世界に乗り込もうとしていることは、やたら強かった魔人ソダン、魔王アンソー、魔人ウッドスなどの存在から、僕にも分かりました。明らかに魔物たちの強さが上がってきていますので、予兆ととらえて間違いないかと……」
「そのとおりだ」
デモントが酒をあおる。
「だからこそ、俺さまたち『神の聖騎士』は、来たる事態に備えて数を増やしておきたいところなんだ」
「はい。ですから、赤い宝石を人形彫り師――傀儡子のもとへ届けて、『生きた人形』を誕生させてもらう必要があります。でも確か、あらかじめ『神の聖騎士』を生み出すためだと告げると、失敗してしまうんですよね?」
ケゲンシーが答えた。
「ええ。心に不純物が混ざって、人間化できなくなります」




