0105話し合い01(1874字)
(15)話し合い
魔王アンソーを退け、魔物たちを追い払った後は、もうザンゼイン大公――ロプシア帝国第26代皇帝ザーブラの軍に、かなう敵はいなかった。
メタコイン王国モグモ国王は、城外でこれと一戦してみるか、それとも篭城してどこかの救援を待つか、一度熟慮してみた。
しかしひたひたと迫ってくる大公軍に、数も士気も足りない自分の軍が勝てるわけがない。また篭城しても、助けに来てくれそうな外国は思いつかない。
そうなると傭兵を雇う以外になさそうだが、必要な金がまるで用意できなかった。それもこれも年額20億カネーを、帝国相手に貢納させられていたからだ。
万事休す――そう考えたモグモは、結局無血開城することにした。魔王アンソーと自分は何の関係もない、わしはただ見ていただけだ、そう説明すれば何とか誤魔化せるかも――などと結論を導き出して。
そしてとうとう大公軍はモグモの城を半包囲した。城内に入れば門を閉められてとり殺されるので、ザーブラ帝王はあくまで跳ね橋の外に身を置く。そこへモグモが重臣たちを引き連れて揉み手で現れた。
皇帝はその作り笑顔に冷徹な鞭を叩きつける。
「言い訳を聞いてやるから、さっさと来い」
ザーブラは急遽作られた幕舎に、彼らを招いた。近衛兵たちの侮蔑の視線を一身に浴びながら、それでもモグモ国王は皇帝ザーブラにひざまずき、『結論』どおりに振る舞ってみせる。
「それが貴殿の訴えか。それで俺が納得するとでも思ったのか?」
ザーブラは不機嫌を隠さずそう述べた。
「だいたい何も知らなかったというが、ではこの城周辺で生した赤光をどう説明する? 魔王アンソーを招いた証拠ではないか」
「そ、それは……」
「もうひとつ。魔王の軍勢が我が領土へ向かったのなら、なぜ城を打って出て背後から襲わなかった? なぜ魔王軍の侵攻を座して見送った? 臣従国とは思えぬ背信行為ではないか!」
ザーブラ皇帝の追及に、モグモ国王はその場にひれ伏して震え上がる。やはり誤魔化せるはずもなかったのだ。
「す、すみませぬ……」
ザーブラは指を鳴らし、小姓に酒を持ってこさせた。
「モグモ国王、貴殿はどうやって魔王と知り合った? なぜ同盟が組めた? それらを教えてくれれば、少なくとも極刑にはせぬぞ」
モグモは顔を上げた。こびへつらいの笑みにザーブラは反吐が出そうだったが、どうにか抑える。
「魔王アンソーは自ら売り込みに来たのです」
「嘘を言うな。そんなはずがなかろう」
モグモは水を浴びた犬のように頭を振った。
「いえ、本当です! 魔王は我がメタコイン王国の窮状をよく知悉しておりました。入れ知恵したものがおったのです」
ザーブラは少し興味をひかれたが、そうと知られるのは何だか癪だったので、酒杯を傾けて表情を隠した。
「そいつらは何者だ?」
「おそらくは、メタコイン王国周辺の商人組合かと。商人組合は、武器や鎧を派手に売り出すため、相手が魔物の元締めでも関係なく接近したのです。まったくとんでもない奴らで……」
「それで装備の需要を喚起すべく、魔王に我が帝国との戦争を起こさせたというわけか。まさに死の商人だな。狂っている」
酒でも飲まなければやってられないところだ。ザーブラは胃を焼く清流をしばし堪能した。
「魔王といえど、あれだけの魔物を呼び出すのは相当骨が折れただろう。どう協力したのだ?」
モグモ国王は汗をふきふき答える。
「メタコイン王国の死刑囚や病人、貧者らを生贄にして召喚しました。やはり人間の血液を使った召喚は、いちいち魔法陣を描いて呼び出すのよりもはるかに簡単で強力らしいです」
「もし我がザンゼイン大公領を征服できたとしたら、その後はどうするつもりだったのだ?」
こうなったらどこまでも真実を語るしかない、と思い極めたのか。モグモ国王の舌は軽薄に回転した。
「魔王アンソーが君臨し、反抗する民をすべて魔物たちの餌とする予定だったそうです」
そこへ帷幕の向こうから、青年らしき男の声が届いてくる。
「アーサー、着きました」
ザーブラは重たい沼から顔を出して、久しぶりに新鮮な空気を吸い込んだように言った。
「早かったな。よし、入れ」
入ってきたのは『皇帝殺し』の『傭兵戦士』、アーサーだった。『昇竜祭』武闘大会決勝戦で、コロコに敗れて準優勝となった仮面の男である。闊達な足取りで進み、うやうやしくひざまずく。
ザーブラはモグモ国王に叩きつけた。
「モグモ、反逆の罪は重罪だ。貴殿から王権を剥奪して軟禁し、その代わりにメタコイン王国の臨時宰相としてこのアーサーを登用する。異存はないな?」
「うげぇっ……」
モグモ国王は真っ青な顔で立ち上がった。




