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0102海とダンジョン03(1984字)

「『召喚』の魔法!」


 ボンボが砂浜に書いた魔法陣から、下半身が魚の青年が槍を抱いて現れる。


「『マーマン』よ、魚を取って来い! できる限りだ!」


「アイアイサー!」


 マーマンはジャンプしながら波打ち際へ進み、そのまま海中に飛び込んだ。


 デモントが片手を横に伸ばす。


三叉戟(さんさげき)!」


 そこに見事な三叉の槍が出現した。ラグネたちに指で空を切ってみせる。


「俺も行ってくらぁ。大物つかまえてくるぜ」


「お願いします!」


「頼むぜ大将!」


 デモントとボンボの魔物は協力して、今晩の食事――鮮魚たちを獲りに向かったのだった。


 ラグネは傾いてきた日を眺めながら、()きっ腹をさする。今日ははしゃいでクタクタだった。遊び疲れる、なんていつ以来だろう。


 ぼんやり砂浜に座っていると、ゴルが隣に腰を下ろした。


「あの『昇竜祭』武闘大会が懐かしいな、ラグネ。あのときの出会いがなかったら、今日はなかった」


「ええ、本当にそうですね」


 しみじみ思う。


「この半年ぐらい、僕は目まぐるしく毎日を送って……たくさんのできごとがあって……いろいろ忙しかったし、でも振り返るとあっという間で……」


 ゴルがラグネの肩を叩いた。19歳と、ラグネよりひとつ年上だからだろう、悟ったふりをしたがる。


「そんなもんさ、人生って奴はな。泣いた数より笑った数のほうが多ければ、それでいいのさ。それ以外に何もいらないんだ」


 遠くでデモントが三叉戟を掲げた。そこには大量の魚介類が刺さっている。




「よう男ども、いい匂いを嗅がせてくれるじゃあないか」


 キンクイを先頭に、女性陣が男性陣のもとまで帰ってきた。もう元の衣装に戻っていた――キンクイとコロコはほぼ変わらなかったが。


 いい匂い、とは焼き魚の香りだ。ボンボが火の妖精サラマンダーの力で火を起こし、三叉戟に刺さったままの獲物を焼いているのだった。


 デモントがときおり表裏をひっくり返しながら、女性陣に得意げに微笑む。


「そろそろ食えるぞ。ボンボ、いったんサラマンダーを戻してやれ」


「あいよっ」


「熱いから気をつけて食ってくれよな。レディファーストだ、どんどん持ってけ」


 ニシンや銀だら、ひらめ、タコなど、種類は豊富だ。9人はあれこれしゃべりながら、がつがつと遠慮なく食べた。ラグネもスズキを頬張る。水平線で太陽がくねりつつあった……


 そのときだった。


「ゴル、ちょっといいか?」


 ヨコラが相棒の冒険者・ゴルに声をかける。ゴルは短剣でタコの足を切っていたところだった。


「何だ?」


「話がある。ちょっと、いいか」


 女性陣が一斉に色めき立つ。ラグネはそれを不思議に思いながら、波打ち際に進むゴルとヨコラの影を見つめた。


 夕陽が海に強烈な輝きをもたらし、ふたりはまるで幻想的な物語の主役のようだ。残りのみんなが遠くから眺める前で、ふたりは浜辺で何事か話す。その声はここまで届かない。


 やがて……


 ゴルとヨコラは、抱き合ってキスをかわした。


 デモントが指笛を奏でる。一同は拍手し、今新しく一歩を踏み出したふたりを祝福した。




 夜も()けた。ラグネは砂浜に体育座りをして、背中に光球を出現させている。そのめっぽうな輝きを明かりに、彼以外の一同はゴルとヨコラのカップルを茶化していた。


「いやあ、ふられたら面白かったんだけどな」


「ちょっとキンクイ、何だその言いぐさは」


 デモントがゴルをおちょくる。


「こんな黒い弁髪の男が彼女持ちねえ。世も末だな」


 ボンボも調子に乗った。


「召喚魔法で出てきそうな感じだしな」


「お前らなあ……」


 ケゲンシーが心の底から、といった具合に尋ねる。


「ヨコラさん、このゴルさんのどこが好きになったんですか?」


 ヨコラがさすがにふて腐れた。


「はいはい、あたしはゴルを好きになるような変人ですよ」


 そのとき、チャムがラグネのそばに来て声をかけてきた。


「ごめんなさい、ラグネさん。明かり役をやらせてしまって……」


「いや、いいんですよ。みんなの声は聞こえますし、これでも楽しんでます」


「そうですか? じゃあもう少しだけ、お願いします」


「はい!」


 チャムが再び去っていく。ラグネはどうして自分の光球は胸側ではなく背中側に出るんだろう、とため息をついた。まあ、胸から翼が生えたらそれはそれで困るけど。


 そのときだった。


「ラグネ、ほったらかしてごめんね」


 コロコがラグネの隣に座った。膝を抱えると砂が舞い散る。


「いえ、さっきチャムさんにも気を(つか)われました。僕は大丈夫ですよ」


「やせ我慢しないの」


「はい……」


 コロコが満天の星空を見上げた。その横顔が、とても綺麗で。ラグネは見とれる。


「ねえラグネ」


 コロコは視線を変えずに、うたうように話した。


「スカッシャーさんがいないのは残念だけど……。こうしてみんなで普通に話して、おいしいものを食べて、和気藹々(わきあいあい)として、恋の話もできて……。今日は楽しかったね。何だか平和な安らぎって、こういうのを言うのかな、って思っちゃった。ラグネはどう?」

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