0100海とダンジョン01(1938字)
(14)海とダンジョン
翌朝、二日酔いのものたちはラグネとチャムの回復魔法で治してもらった。その上で、コロコが海へ向かうことを告げた。
「賛成です」
「賛成だ」
「賛成よ」
――というわけで『神の聖騎士』の3人がフル活躍する。デモントがゴルとキンクイを、ケゲンシーがコロコとヨコラを、ラグネがチャムとボンボを、背中に乗せたり両腕で抱えたりして飛行した。大山岳地帯を避けて、東に仰ぎ見ながら南下する。
デモントは背中に乗せたキンクイへ再度尋ねた。
「本当にスカッシャーは留守番でよかったのか? お前の旦那だろ」
「いいのよ、重過ぎるし。それよりデモントさん、もっと速度出せないの?」
「1000万カネーの袋が結構堪えてるんだよな」
一番体力があるからと、貨幣の詰まった皮袋も背負わされているデモントだ。
南方に向かってさらに飛び続けること一刻。とうとう青い水平線が見えてきた。
「あれが海……!」
ラグネは噂に聞いた海を初めて目の当たりにして、畏怖すら覚えた。
「あんな巨大な水たまりがあるなんて……凄すぎます」
抱いているチャムが微笑んだ。
「しかもあれって塩っぱいんですよ。私、昔行ったことあるから知ってるんです」
「へえ……!」
黄金の翼では高空を飛べないので、高度を下げて飛翔している。そのせいか、現地の人々に多数仰ぎ見られた。
これを嫌ったか、ケゲンシーが提案する。
「人の少ない海岸へ行きましょう。それこそ誰も来ないような場所へ」
「そうすっか。ついてこいよ、お前ら!」
デモントが重量にもめげずにスピードを上げた。ケゲンシーとラグネが慌てて後を追う。
こうして9人は人っ子ひとりいない海岸に到着した。岩礁に囲まれており、まるでここだけプライベートビーチのようだ。
それにしても暑い。じっとしているだけで発汗した。陽光がさんさんと降り注ぎ、水面に反射している。デモントが下着一丁になった。
「よっしゃ、泳ごうぜ! ……って、ラグネたちは泳ぎ方を知らないか」
「はい、僕もボンボさんも知りません」
「よろしい。それじゃこのデモント教官が、スパルタで泳ぎを教えてやるから覚悟しろ!」
ゴルがその言い方に苦笑した。
「我は泳げるから、ひとりで浸からせてもらうぞ」
「おう、分かった。……っておい、女性陣? きみたちはどこへ行くのかな?」
ケゲンシーを先頭に、女性はみなひとつ隣の浜辺へ向かう。コロコがデモントにあかんべえをした。
「覗きにきたらぶん殴るからね、男性諸君」
ヨコラも追随した。
「最悪、股間のものを剣で斬り落とすことになる。いいな」
ずいぶん怖いな。ラグネは震え上がった。
「さーて、チャムは泳げるの?」
コロコが準備運動しつつ尋ねると、チャムはあいまいにうなずいた。
「昔は泳げたような記憶が……」
「じゃあ教えてよ! ほらほら、暑いんだし脱いで脱いで」
「きゃっ、ちょっと、コロコさんっ!」
チャムはフード付きの藍色ローブを脱がされた。そこには金髪碧眼の美貌がある。おお、とコロコが瞠目した。
「ちょっとヨコラ、チャムって凄い美人じゃない! 何で今まで黙ってたのよ」
「別に意図的に隠してたわけじゃないぞ」
チャムは羞恥心で耳まで真っ赤になっている。キンクイが笑って肩を叩いた。
「さあさあ、下着姿になって。あたしとコロコは元から下着姿みたいなものだから、このまま水に浸かれるな」
その横でケゲンシーが銀の細工をあしらった服を脱ぎ捨てる。成熟した女性の体が下着に隠れていた。それに比べると、ほかのメンバーはいまいち胸が足りなかったり、腰のくびれが少なかったりと見劣りする。
4人の羨望のまなざしを一手に引き受け、ケゲンシーは両手を広げた。
「私は泳げます。ケゲンシー水泳教室へようこそ!」
そして彼女たちは海へと走り、一斉に飛び込む。水しぶきがあがった。
「おー、やってるな」
デモントが額に手をかざし、遠くの女性陣を眺めた。ゴルが鼻の下を伸ばす。
「下着が濡れてすけすけだな。近くで見れたらよかったんだが」
ラグネはボンボと、波打ち際で水のかけ合いをしてはしゃいでいた。確かに海水はしょっぱくて、これなら乾かせば塩が取れるんじゃないかと考える。
「おらっ、ラグネ!」
「わっ!」
ボンボに胴へのタックルを受けて、背中から海に落ちた。すぐに水面から顔を出し、「やりましたね!」とじゃれ合う。デモントの呆れ声が聞こえてきた。
「まったく、お子さまたちは……。おいふたりとも、泳ぎを教えてやるから俺さまに従え」
「はーい」
ゴルは少し沖へ行ってくる、と泳ぎ始めた。その頭部がみるみる遠ざかる。
「へーっ、すごいですねゴルさんは……。デモントさん、僕もああなれますかね?」
「この俺さまの教えについてこれたらな。……さあラグネ、まずはバタ足の練習だ。俺さまの両手につかまって足で水を蹴るんだ」