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王を問う  作者: 大石安藤
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9・大橘妃

 あきれ顔の王太子の正妃に、コウは頭を下げた。

「このような時にお騒がせして申し訳ございません」

 だが真織宮まおりのみやの正妃、大橘妃だいきつひは部屋の中で恐縮しきりな様子のコウより、部屋に続く縁でしらっと胡坐を汲んでいる弟皇子に眉を顰めた。

「宮様がお止めしないとはどういうことです」

 だいたい義理の姉とはいえ、供も介さずに女性の私室を訪れるとははしたないにもほどがある。とは言っても大橘妃は王太子兄弟とは従姉にあたるため本当の姉弟のように遠慮がなく、形ばかり内と外に分かれているとはいえ、御簾も衝立も用意させていない。大橘妃の気持ちとしては扇すらいらないぐらいだが、これは手に馴染んでいるので無いと落ち着かない。

伽木きゃきは私の言うことなど聞きません」

「そんなことはありません」

 コウが即座に否定しようが、玉緒宮たまおのみやは涼しい顔で「それで姉上、兄上から何かお聞きになっておりませんか」と続ける。

 大橘妃は扇の影で溜息を吐いた。

「聞くも何も我が君に知らせが届いたのさえ、つい一昨日のこと。すぐに私のもとへとお出でになりましたが」

「狼狽えてばかりで話にならなかったと」

 ふんっと鼻を鳴らす玉緒宮に大橘妃は顰め顔を大きくし、すくっと立ち上がったと思うと王太子妃には有り得ない素早さで縁におり、手にしていた扇で宮の膝をぴしゃりと叩いた。

「いたっ! 相変わらず姉さまは手がはやいんだから」

「宮様が無礼過ぎるからです。王太子に向かってなんということを」

「本当の、いや、わかりました。わかりましたからその扇を収めてください」

 私的な部屋で身内しかいないため大橘妃は簡易な袿しか羽織っていない。それでもその袖が捲れるのも厭わずに腕を振り上げたのを見て、玉緒宮もさすがに焦って胡坐のまま後ずさった。

「我が君を腐すのは許しません」

「わかりました。わかりましたから、とにかくお戻りください。こんなところを見られでもしたら私が怒られるのです」

「それは仕方がないのでは」

 兄皇子が狼狽えている間に、ほどよく冷ました茶を2杯立て続けに飲み干したコウは先ほどより余程落ち着いた様子で口を挟んだ。

「伽木はそういうところが可愛げが無い」

「可愛げなど要りませぬ」

「いいや、伽木様は十分以上にお可愛らしいです。宮様の言葉など聞く必要はありません」

「姉さ、姉上は伽木に甘すぎます」

「可愛い妹だもの。当たり前です」

 大橘妃は上座に戻って座り直すと、「さて」とコウと玉緒宮の顔を改めて見直した。

「聞きたいのは龍のことでしょう」

 コウの顔がキュッと締まった。



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