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王を問う  作者: 大石安藤
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5・山之師2

 香女は父から龍気りゅうきの説明を受けた後、山之師さんのしに引き合わされた。

「お前の師である。我になにかあったらすぐに師を頼れ」

 西の大臣も東の大臣もずっと控えていた姫皇子の付き添いの侍女も下げさせて、その場には王と姫皇子と、大臣たちと入れ替わりに控えの次の間から入ってきた師の3人しかいなかった。

 さっきは香女が嫁に行くまで長生きするからと言ったばかりであるのに、亡くなった時の話をするのはどういうことかと思わないでもなかったが、こればかりはしきたりであるので仕方がないと香女は大人しく山之師に頭を下げた。

「よろしくお願いいたします」

「頭はまだ下げなくてよい」

 姫皇子ではあるが王位継承権も放棄した末の子であるから、頭を下げるなどなんてことはない。むしろ、年上を敬うことは大事だ、とにかく目立たず頭を下げておけと乳母夫婦にさんざん教え込まれている。

 だから父にそう言われても、そうですかと頭を上げるのは躊躇した。躊躇をくみ取ったように、父より低い声が香女を呼んだ。

「姫様、まずはお顔を見せてください」

「はい」

 ようよう顔を上げると、上座の父の手前、左側に肩幅の広い禿頭の男が胡坐をかいて座り、じっと香女を見つめている。

「これはこれは、お可愛らしい」

 入ってきた時には体の大きな人だとしか思わなかったが、こうしてみると態度も大きい。もっとも父が男性にしても小柄だから相対的に大きく見えるのかもしれない。だが「これほど可愛らしいと、同じ宮で過ごされたいのでは」と王に話しかける態度は不遜ですらある。

 香女は少し眉根を寄せたが、黙ったまま師を見つめた。

 座っていても背が高いとわかる。禿頭ではあるが眉は濃く黒い。切れ長な一重の瞳は眦が少し下がっていて妙な愛嬌がある。

「山之師というのは姫様の師と決まり王につけていただいた名です。名に負けぬ師になるよう努めてまいります。自ら師を名乗るのは烏滸がましいですが、どうぞ山之師とお呼びください」

 薄いがやや大きめの口からでるのは、低いが存外軽い声音である。

「はい。よろしくお願いいたします」

 香女は改めて頭を下げた。



師父しーふーでいいって言ってんのにぃ」

 山之師と呼ぶよう言ったことなど、忘れているのだろうか。

 お茶を入れたと言えばそんな言葉と尖らせた口で振り向く師をどう扱ったらいいのか迷うのは、まだ庵について2日しか経っていないからだろうか。

 それでも香女が差し出したお茶を、「うん、美味しい。コウは茶を入れるのが上手いんだね」と微笑む師は、確かに1年前父によって引き合わされ、龍気を見つけるための教えを授けようと言ってくれたその師なのであった。



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