30・容態
「悪化はしておりません」
「うむ。綺麗なものだ。薬も効いているのだろう。熱は無いようか」
「はい。すっかり落ち着いております」
「もうしばらくこの薬を続けて様子を見よう。食はどうだ。きちんと召し上がられているか」
「薬が飲める程度には」
「それではまだ動かせないな」
「はい」
采子と勘定は淡々と大橘妃の容態を確認していく。すでに詔が発令されて半月ほど、あの神楽の日からならひと月に少しかけるぐらい経っている。
大橘妃の腕は化膿もせず、毒の回りもなく経過は順調である。だが気持ちはそうはいかない。
妃の部屋からあの庭は離れているが、時折そちらの方へと視線を動かしては溜息をつき、はらはらと涙をこぼす。采子以外とは口をきかず、それも最低限の返事ぐらい。無くなった左手を探すように右手が動くが、体を動かそうとはしない。
采子にも勘定にもそれが一時的なものか、しばらくすれば元通りとはいかなくても戻っていくのかわからない。だが必要以上の事を強いることはしない。
真織宮は殯宮を出てから毎日のように大橘妃の元を訪れているが御簾の中どころか部屋の中にすら入っていない。麻酔の薬草はすでに焚いていないので入ってもいいのだが、
「大橘妃様がこんな姿をお見せしたくないと仰せられておりますので」
と、采子が首を縦に振らない。
真織宮も無理に入ることはない。顔を合わせたところで、なんと言っていいのかわからない。それでも足をむけるのは、宮自体に入れない皇子たちからも毎日のように容態を聞かれるからだし、自身に責があるように感じているからでもある。
真織宮は大橘妃の宮に続く長い廊下の端で紫色の花が咲く庭を見ているうちに、半月が昇ってくるのに気がついた。まだ梢にかかったばかり。月がゆっくり動くのを見ながら、真織宮は龍が見つかることをまだ諦められずにいた。




