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王を問う  作者: 大石安藤
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3・山之師

師父しーふーと呼んでくれていいよ」

「……何ですか、それ」

「流行ってんだって。俺もそう呼ばれてみたいんだよ」

 駆けつけ三杯と、香女の小さめの手にすっぽりと納まる湯呑に白湯を3杯飲み干した時、山之師さんのしはそう言って笑った。

「流行りって」

「なんかさ、海向うの言葉でさ。かっこいいじゃない」

「はあ。山之師では駄目でしょうか」

 それは1年前に王城で引き合わされた時に父から教えられた師匠の名前だ。正しくそう呼ぶようにと言われたのだから、正しく呼ぶべきだろうに。

 小さな庵の水場の土間からすぐの板の間の薄い畳の上に肘をついて寝そべりながら、山之師は笑顔で続ける。

「近頃は海龍のご機嫌もよくて五国以外の話もよく入ってくるんだよね」

「五国以外は龍が統べていないから争い事が絶えないと聞いております」

「龍がいないと面倒が多いのは確かなんだよ。そこら辺はおいおい教えていくけどさ」

「はあ」

 なんだかよくわからないまま、香女は息をついた。

 さすがに疲れた。

 龍気を見失ったと気づいた時には駆け出していた。庵に辿り着いて数刻たったから息はようよう整ったが、気持ちは高揚しているような、どこかに落ちてしまったような、よくわからないままだ。

「奥が元姫さんの部屋だ。名前は、王はコウと呼んでいたな。香女だからか。それでいいな」

「はあ、なんでも。……元、姫さん?」

「もう姫じゃないからなぁ」

 あははと笑いながら立ち上がると、庵の奥の3畳ほどの小さな場所を案内してくれた。他に板の間がある。水場、すぐの板の間、山之師の間、奥の間という造りらしい。奥以外はどれも6畳ほどの質素な造りだが、調度は揃っているようだ。奥の間には板戸の嵌められた小さな窓もある。灯り取りになるのだろう。

「とりあえず寝ておけ」

 薄いが密に織られた敷物と上掛けの着物を与えられ、掃除もされてほこりひとつなく磨かれた奥の間に勧められるまま横になった香女の、無防備に投げ出された細い腕を、山之師は軽く叩いて微笑んだ。

「龍は見つかる。だがまだなにも考えなくてよい」

 そうだ、父は死んだのだ。

 山之師が次の間に戻る間も待たず、見開いた香女の目からは涙が流れ始めていた。





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