24・兼定と采子
駆けつけた兼定が勘定を伴っていないことに気がつくと、采子は露骨に顔を顰めた。
大橘妃の侍女の筆頭である采子は西の大臣の遠縁の衛門佐の娘で、生まれた時から大橘妃の傍らにいた。幼い頃から侍女であったが、暦府の占のお告げがあって医学を学んでいる。
龍の国の占は単なるお告げではない。龍気が影響しているせいか、従えば10割当たる。従ったからといって良い結果が出るとは限らないが、従わなければ転がるように落ちていく。もっとも占は数年に1度、数十年に1度、出るか出ないかという頻度の低さで、暦府でも占が出ると大騒ぎになる。
大橘妃の部屋の中は締め切られ、麻酔に使う薬草の甘い匂いが充満していた。采子は兼定に鼻と口にあてる布を差し出しながら、
「勘定様はいつ」
と、来る前提で尋ねた。采子は外的医療に優れ、勘定は内的医療に優れている。毒に関しては勘定以上にわかるものはいない。
「呼びにいかせている。すぐに来る。大橘妃様はいかに」
采子はすっと手を払い、顔をすっかり覆っている侍女に御簾を上げさせた。
「血は止まっています」
「切ったのか」
大橘妃の左腕は肩より高いところで動かないように固定され、すでに晒は新しいものに変えられている。
「毒矢と思いましたので。丹はいかがしました」
「こと切れた。かなりな毒だったようだ。腕と聞いたが」
采子は丹の死に眉を顰めたが、それ以上は聞かなかった。
「扇がいつもより大きな物をお使いでしたので、左手の甲に刺さりました。いつもの扇でしたら首に刺さるところでしたから、運が良かったとも言えましょう」
さすがに首を切り落とすわけにはいかない。
「そうか」
「曲者は衛兵が切り伏せました。その衛兵がすぐに自害して果てましたので、おそらくその者が手引きをしたのでしょう」
「衛兵と曲者に関してはこちらで調べる」
「勘定様がいらっしゃるまで、隣室でお待ちください。ここは私が」
兼定がいても役には立たない。
「わかった。私は護衛の話を聞いて」
続きを言う間もなく、勘定が着いたとの前触れが、勘定本人とほとんど同時に部屋に入ってきた。




