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王を問う  作者: 大石安藤
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2・香具宮

 香具宮かぐのみや香女こうじょが生まれた時に創設された。母が側妃で生まれの身分も低かったので、王城の宮に入るには悶着が多すぎた。

 それでも龍の理のために姫皇子は疎かにできない。龍を見つけるのは姫皇子だからだ。

「香具宮としよう。離れの庭に建てればよい」

 姫皇子が入る宮には必ず香の字が入る。そう言うことなら姫皇子すべてが香女こうのひめと呼ばれるわけだ。だが王には皇子が7人もいるのに姫皇子は他にふたりしかいなかったし、香女が生まれた時にはすでにその年の離れたふたりとも嫁いでしまっていた。

 香女には長々しい正式な名もあるが、そういう理由で生まれてからこの方、香女は国でたったひとりの香女なわけなのだ。



「なんでこんなところに」

 母の和氏妃わじひは、離れの庭と言っても王城から川を隔てて作られた小さな宮で1日中嘆きながら過ごし、泣きすぎたためか香女が王位継承権を降りて2年で亡くなった。

 嘆きか悪口か愚痴かと、口から悪い言葉ばかりが出る母であったが、字が美しく早かったので、父はその手跡を慈しんだ。鄙の生まれで王族のしきたりに疎く、実家も裕福ではなかったため、正妃を始めとした他の3妃からはかなり意地悪なこともされていたのは確かである。ゆえに父は母の悪い言葉ばかり紡ぐ事さえ受け入れていたのかもしれない。



 宮の造りは妃の実家の規模にかかってしまうから、香具宮はそれはもう質素なものである。地方豪族の方がよほど豪奢な建物に住んでいる。

 いくつかの部屋と小さな庭が3つ。住み込みの召使はは香女の乳母夫婦しかいない。もともとこの国は豊かではないから、王族といっても贅沢は嫌われる。実家の援助が無ければこんなものだと、香女は兄皇子たちの宮からわかっている。

 嘆きながら墨をする母の手伝いを終えれば、香女は乳母を手伝って食事作りから庭掃除までこなし、それをまた母が嘆くの繰り返しだった。

「こんな幼い姫を片隅に押し込めて下女も寄こさず働かせるなんて」

 だが1日のほとんどを嘆いている母の傍にいるよりは乳母の傍でいろいろしている方が香女は楽しかったし、川を越えて父の顔を見に行くのも勝手にできて良かった。

 川といっても小さな香女がざぶざぶと5歩ほど歩けば渡れる幅の、小川と呼ぶのも躊躇われる細い流れだ。ざぶざぶざぶざぶと音を立てて川を渡り、ずぶ濡れで父のいる王城の奥宮に行けば、必ず父はその縁で香女を待っていた。長い長い縁の端まで出て、父は小柄な体を伸ばすように香女の来る方を見ていた。そして香女を見つけると「コウ、ほら、甘いものがあるぞ」と大きく手を振った。

 香女は懸命に走った。それでも幼子の足で父のもとへは行くには時間がかかる。とっと、とっとと走り、やっと辿り着いた父の膝の上で献上品の甘味を食べる時が、香女の1番楽しい時間だった。



 成人の儀を終えて龍の話を聞いた時、いつでも縁で待っていた父は、確かに龍の気配を感じていたのだと、香女は理解することができた。



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