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白薔薇園の憂鬱  作者: 岡智みみか
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第3話

 平日の午後を満喫して家に戻ってくると、玄関先に不機嫌な卓己がいた。


「……。今日は、どこへ行ってたの?」

「会社」


 面倒なので、そう答えてから朽ちかけた門をくぐる。


「嘘つき」

「なんで嘘って分かるのよ」

「だって、会社に電話したもん」


 そこからいつもの押し問答。

ぐだぐだとなかなか食い下がらない卓己に、今回は私が根負けした。


「ちょっとね、とある美術商のところへ行ってたのよ」

「美術商? なんで?」


 なんでって言われても……。

私もこれ以上は、本当のことを言いたくない。


「おじいちゃんの作品を、前に扱ってたことがあるらしくって、それで……」


 目が左右に泳いでしまっている。

苦しいのは分かってる。

もっとまともな言い分けを考えないと。


「だから、おじいちゃんの作品をどういう経路で入手したのか、教えてもらおうかと思って……」

「お城のレストランに飾られることになった、『山』の絵ね」


 卓己はひょろ長く高い背でため息をつく。


「それで、教えてもらえたの?」


 美術商がそう簡単に入手経路なんて、教えてくれるわけがない。

作家本人から直接買ったわけでもない、人手をまわっているような作品ならなおさら……。


「教えて……、もらえなかった」


 ここでヘタな嘘をついても仕方がない。

卓己だって、自分とか他の仲間たちの作品を、出品してる立場の人間だ。


「なんていうところ? 僕が聞いてあげるよ」

「いい」

「吉永さんとこでしょ」


 じっと見下ろす卓己に、ぐっと唇をかむ。

知ってるんならわざわざ、聞きに来なくてもよくない?


「僕も気になってたんだ。こないだのアートフェスに出品されてた作品からね。もちろんそこで買ったんだろうけど、それがお城のオーナーに渡ったってことだよ。それ以上のことを知りたいの?」

「無理……、だよね」


 その吉永商会に1人で乗り込んでいって、おじいちゃんの思い出話なんかして、うまいことごまかされた。

吉永さんに。

彼が本当に意図してそうしていたのかは分からないけど、結局贋作のことは聞き出せず、話がそれまくって本題に入れないまま帰ってきたのは、誰のせい? 

えぇ、ワタクシのせいでございます。


 今になって思い返せば、私はこの業界では、結構知られた存在なんだった。

おじいちゃんの孫ってだけじゃない。

場違いなほど若い娘が、オークション会場で毎回話にならないくらいの小銭を握りしめ、必死で値を釣り上げるだけ釣り上げたうえ破れ、泣きながら会場を出て行く。

吉永さんはもしかしたら、どこかの会場で私を見たことがあったのかもしれない。

だとしたら、おじいちゃんの贋作作りのことなんて、絶対に話すワケないじゃない!


「ゴメン。やっぱり私が間違ってた」


 急に腹が立ってきて、勢いよく壊れかけの門を開ける。

傾いた扉を、慌てて卓己が押さえた。


「今日はもう話すことないから、帰って」

「あの吉永って人も、作家さんだよ!」

「え?」


 突然の卓己の発言に、振り返る。


「あ、あの人、自分で売買もしてる……けど、だけど、じ、自分でも作品を、作ってる人、なんだ」

「は? なにそれ」

「恭平さんのところでも、修行して……た、こともある、作家さんだよ」

「それ、本当なの?」

「う、うん。お店は、本名でやってる……けど、作家として、は、別の雅号を持ってる。矢沢映芳って、いうんだ」


 見上げる卓己は、おどおどとした視線を脇にそらした。


「だ、だから……、さ。僕……の、こと。もう、これ以上……。お、怒らない、で……。許して……」

「なんのこと?」

「だって紗和ちゃんが……。ずっと怒ってるじゃないか。灯台から戻って来てから、ずっと。俺のこと、もう嫌いになったのかって……」


 卓己の頭が、私の肩に乗せられた。

自分でも、弱いなと思う。

ぐずぐずと泣いている卓己の、クセだらけの髪をそっと撫でた。


「嫌いになったりするワケないじゃない。私はずっと、卓己の味方だよ」


 うんと小さく答えた卓己は、ぎゅっと私の体を抱きしめた。


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