表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白薔薇園の憂鬱  作者: 岡智みみか
60/85

第3話

「さ、紗和ちゃん……は、は、颯斗さんに、灯台のこと……も、話したんだ」


 これで鍵穴の場所は分かった。

残る問題は、鍵のありかだ。


「しょ、か、会社で……は、同じ所で、働いてるんだ」

「全然別部署」


 錠前の発注を済ませてからは、彼は扉内部のカラクリを考えることに夢中で、しばらくあーでもない、こーでもないと、彼の考察と試行錯誤の製作日記が続いている。


「ぶ、部署、が、違っても……、あ、会って、普通に話しができたり、する……ん、だね」


 ついにカミル・ベッカー氏に発注した特殊な錠前が、リンドグレーン氏の元に届いた。

彼はまずその美しさに感嘆し、誉めちぎっている。

制作者ご本人の前でどれだけの賛辞を並べたかは分からないけど、個人的な日記のなかでこれほど賞賛しているのだから、かなり出来がいいものだったに違いない。

卓己と佐山CMO同様、リンドグレーン氏もカミル・ベッカーさんが大好きだ。


「さ、紗和ちゃんの会社……。け、結構大きな会社なの、に、そ、そういうことって、よくあるんだ!」


 充さんがお父さまから直接聞いていたように、錠前を開く鍵は2本存在する。

両方を同時に2つの鍵穴にさして、決められた順番通りに回さなければ開かない仕組みらしい。


「ねぇ紗和ちゃん! ちゃんと話、聞いてる?」

「聞いてるよ」


 どんな順番だろう。

そこまでは、ここまで読んだ内容に書かれていない。

困るな。

この先にはちゃんと、記されているのだろうか。

次のページをめくる。


「ぼ、僕も、大事な話が紗和ちゃんにあって、そ、それで、今日は、ここに来た……んだ」

「大事な話って、なにか分かったの?」

「違う。灯台のことじゃなくて」


 なんだ。

私は日記に視線を戻す。

2本の鍵は二人の子供、つまり充さんと、亡くなった従兄弟にあたる女の子に託そうとしていた。


「ねぇ、紗和ちゃん。紗和ちゃんが……、もし、もしよかったら……だけ、ど……」


 結局、氏は鍵を子供たちに直接手渡すのではなく、別荘のどこかに隠すことにしたらしい。

彼のイタズラ心がタイミング悪く発動してしまったおかげで、隠された鍵は探されなくなり、灯台は開かずの門となった。

氏は鍵を隠す場所をどこにしようか、あれこれと考えている。


「い、今の会社、を、辞めて……さ。僕の所で、働かない? ほら、うちのスタジオも結構忙しくなってきたし、じ、事務関係……の、その、手続きとか、人手が足りなくなってて、それで……」


 台所、寝室、屋根裏に、玄関。

ここでは、子供部屋も候補にあがっている。

しまった。

そういうことなら、あの時にちゃんと子供部屋も調べておけばよかった。


「だ、だから……。その、お、お給料のこととか、は、また別に、相談、しないといけ……な、いんだけど……」


 不意に眠気が襲ってくる。

ダメだ。

今日はもうこれ以上頭が回らない。

集中力の限界だ。

私は日記のページにしおりを挟むと、ソファから立ち上がった。


「今日はもう限界。卓己はご飯、食べ終わった?」

「う、うん」


 卓己のパスタの皿は、いつの間にか空っぽになっていた。


「片付けは私がやっておくから、卓己ももう帰りなさいよ。明日も忙しいんでしょ?」

「ねぇ、紗和ちゃん。本当に僕の話、ちゃんと聞いてた?」

「うん。聞いてたよ。この件に関しては、ちゃんと考えておくから」

「ほ、ホントに?」

「うん。任せといて」


 にこっと笑ってみせたら、彼はちょっと照れたような、うれしそうな顔をした。


「じゃあ、お、お願いね」

「うん」

「おやすみ!」


 卓己は何度も何度も振り返り、夜道を帰っていく。

私はいつも通り彼の姿が見えなくなるまで、手を振って見送った。

台所の片付けを済ませ、風呂に入りベッドへ潜りこむ。


 解錠の方法に関しては、まだ読み進めてみなければ分からないけど、鍵の隠し場所の検討はついた。

子供部屋だ。

あの日記の内容からすると、子供たちに自然と見つけられるようにしたかったらしい。

しかし氏の特性であるトリッキーな性格のせいで、普通のところに隠す気は、さらさらない。


 また明日も頑張って、日記の解読を続けよう。

卓己たちとも約束したし、そう何度も何度も充さんのお宅にお邪魔するわけにもいかない。

私はベッドのなかで、まだ見ぬ鍵の姿を想像しながら、目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ