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白薔薇園の憂鬱  作者: 岡智みみか
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第4話

「そ、その、に……、日記を見て、な、なにか、分かった?」

「そんなの、こんな短時間で見つけられるわけないじゃない」


 闇雲にさがしても、きっと見つからない。

だけどもう大丈夫。

手がかりは見つけた。


「二階にある残りの二部屋も見ておくけど、この日記に、ヒントが隠されていると思う。だってさっき見たページに、扉と鍵のことが書いてあったんだもん」

「え、紗和ちゃん。い、いつそんな、の、見つけたの?」


 私は卓巳を、無言で見上げる。

そのままなにも言わず、彼に背を向けた。

頼りになんて最初っからしてないから、気にもなりません。


「もう卓巳たちは手伝わなくていいよ。下に行ってて」

「な、だ、だけ……ど。紗和ちゃん!」


 二人をおいて廊下に出た。

お父さまの日記を胸に抱いたまま、隣の部屋を開ける。

子供部屋だったらしいそこには、絵本とおもちゃで飾られた小さな机が2つ並んで置かれていた。

子供が灯台から落ちたのなら、その鍵をここに置いておいておくことはないだろう。

うっすらとホコリをかぶる時間の止まったような薄暗い部屋の扉を、私は静かに閉めた。


 最後の部屋は、ご夫婦の寝室かな? 

大きなベッドと、そのサイドテーブルに数冊の本が置かれていた。

数冊を手にとって見てみたけれど、日本語じゃないから分からない。

なにかの小説か、解説書みたいな感じだった。

各部屋の間取りと雰囲気を頭に入れ、一通りの捜索を終えた私は、下に降りる階段へ向かう。

お父さまの書斎から出てきた卓己と千鶴に鉢合わせた。


「あ……。ねぇ、紗和ちゃん。や、やっぱり……さ……」


 卓己はもじもじしながら、何かを話そうと必死で言葉を探している。

私はそんな彼を待たずに、自分の用件を口にした。


「ねぇ、卓己。この日記をかりて帰りたいから、充さんを説得するのに協力して」

「え! あ、はい。う、うん、分かった」


 卓己が酷く安心した様子を見せたことに、千鶴は完全に呆れている。

彼女の気持ちはよく分かる。

卓己はこんな嫌な女の、どこがいいんだろうって。

私だって、卓己と一緒にいる時の自分は好きじゃない。


 充さんはお父さまの日記を借りて帰ることに、快く承諾してくれた。

卓己たち三人はそれからも、ずっと楽しそうにおしゃべりを続けていたけれど、私は日記のページをめくる。

スウェーデン語で書かれている部分は所々充さんに教えてもらった。


「本当にずっとその日記を読んでいるのね」


 不意に千鶴がやって来て、ソファの隣に腰を下ろした。


「『紗和ちゃん』って、本物は随分イメージが違って、ちょっとびっくり」


 彼女は真っ黒い髪と目でにっこりと微笑む。


「……。卓己は、私のことを何て言ってるの?」

「なにも! あなたの話なんて、誰にもしたことないよ」

「じゃあなんで……」


 彼女はふぅとため息をつくと、何杯目かの紅茶をテーブルに置いた。


「あなたのことは、卓己を知ってる人ならきっとみんな知ってる。知らないのは、本当に『紗和ちゃん』だけなのね」


 どういうこと? 千

鶴が立ち上がる。


「あぁ、もうこんな時間ね」


 なんだか誤魔化されたような気がする。

千鶴の言葉に、卓己も立ち上がった。


「じゃあ、そろそろ帰ろうか。さ、紗和ちゃん、も、そ、それで、いい……かな?」

「うん。ねぇ、充さん。また来週末、ここにお邪魔してもいいですか? それまでに日記を解読して、灯台も見たいです」

「あぁ。いつでも歓迎するよ」

「あ、じゃ、じゃあ、僕も来ます!」

「私もー」


 別れの挨拶を済ませ玄関を出ると、私は迷わず黄色いオープンカーの後部座席に乗り込み、お父さまの日記を開いた。

それを見た千鶴は、助手席に座る。


「じゃ、じゃあ、出発する……ね」


 誰に向かって言ったのか分からない卓己の宣言があって、車は走り出した。

沈み始めた初夏の夕焼けに、海沿いを走るオープンカーの風は、ちょっと肌寒い。


「さ、紗和ちゃん。今日……は、先輩んち、どうだった?」


 心地よい振動にあっさり完敗した私は、薄れゆく意識のなかで、卓己に何て返事をしようかと考えている。

千鶴が振り返った。


「あ、紗和ちゃん。寝ちゃってる」

「そうなんだ。ずっと一人で頑張ってたからね」

「ふふ。顔に黒い線つけたまま寝てる。かわいー」


 そんなのついてたっけ。

耳は聞こえているけど、目を開ける気力まで残っていない。


「……。私、今まで卓己の描いたスケッチブックの『紗和ちゃん』しか知らなかったけど、実物の紗和ちゃんって、こんな感じなんだね。もっと清楚で可憐な、儚い感じの女の子かと思ってた。卓己の描いてる紗和ちゃんを、この人に見せてあげたい」

「そんなの、絶対ダメだって」

「どうしてよ。アレを見たら、彼女も納得するんじゃない?」

「先にちづをうちに送るよ」


 手から日記がすべり落ちる。

私は完全に眠りに落ちていた。


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