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白薔薇園の憂鬱  作者: 岡智みみか
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第2話

 家主である充先輩の許可を得て、私はこの家の中にあるはずだという鍵を捜し始めた。

卓己と千鶴と充さんは、優雅に一階のリビングでお茶の続きを始めてしまったが、私は一人で二階に上がると、5つある部屋を順番に見て回る。


 車いすの充さんの元には定期的にヘルパーさんがやって来て、お世話をしてもらっているらしいけど、二階にはほとんど上がっていないようだ。

薄暗い廊下に明かりはついたものの、全体的にうっすらとホコリがかぶり空気はよどんでいる。

灯台で事件が起こり封印されてしまったのは、17年前の話だという。

歩けばぎしりと軋む古い木造の廊下を、慎重に進む。

別荘の管理を任せている会社から、清掃や点検は入っていたみたいだけど、どうしても老朽化は否めない。

私は一番手前の部屋のドアを開いた。


 一つ目の部屋は、ガランとした空間に小さな棚とベッドが置かれているだけだった。

別荘というだけあって、置いてある家具や荷物は少ない。

備え付けのクローゼットを開いてみると、きっと思い出の品なのであろう古い靴やぬいぐるみ、子供用のおもちゃなどがきちんと整理して置かれてあった。

ここは人の手が入っている。

鍵をなくしたのであれば、これほど整理されたところには、ないような気がする。

ざらざらした床に頭をくっつけベッドの下も覗いてみたけれど、やっぱりなにもない。

うん。この部屋に鍵はないな。次だ。

隣の部屋の扉をあけると、その部屋にいたっては、全くの空き部屋だった。


 三部屋目。

二階中央の南側にある扉の前に立つ。

あぁ、ここが本丸だったか。

他の部屋とは全く違う大きな木の扉には、全面に幾何学模様の彫刻が施されていた。

その重い扉をゆっくりと開く。


 落ち着いた深い赤の絨毯が敷かれた部屋は、壁一面がびっしりと本棚で覆われていた。

その中央に光沢のある木製の立派な書斎机が置かれ、その手前には小さなローテーブルとソファも用意されている。

間違いなくお父さまの書斎だ。

英語ではなさそうな文字で書かれた雑誌が、積み上げられている。


 さて。この部屋のどこから手をつけようか。

なくしたというより、お父さまが隠したというのなら、カーペットの下とかもありかも。


 そんなことを考えた私は、とりあえず部屋の隅っこでしゃがみこみ、敷物をめくってみる。


「さ、紗和ちゃ……ん。は、なにやってんの?」


 開け放したままの扉から、卓己と千鶴がのぞき込む。


「あー。こういうの、本気で取り組むタイプなんですねー」


 ほこりまみれになった体で咳払いしながら立ち上がると、パンパンとワザとらしく手を払った。

ちょっと恥ずかしい。


「えぇ。私はいつだって、本気ですから」


 卓己は部屋を見渡すと、千鶴に言った。


「ここは先輩の、お父さまの書斎だね。さぁ僕たちも、紗和ちゃんを手伝おう」

「はぁ~い」


 千鶴の全く気合いの入らない、間延びた返事には正直ちょっとイラッとしたけど、この部屋を一人で捜索するには、絶対に無理だ。


「じゃあ私はデスクを探すから、卓己と千鶴ちゃんは本棚をお願いね」


 二人はそれぞれに分かれ、思い思いに捜索を始めた。


「わー。この作品集、すっごいよ。ちょっと卓己、見て見て~!」

「え? どれどれ?」


 卓己と千鶴は早速脱線して、一緒に分厚い図鑑のような画集を眺めている。

私は彼女たちに構わず、デスクに並べられた本の背表紙をチェックしていた。

絵の構図や、立体模型、設計技術やデザイン関する専門書ばかりだ。

あとは辞書とか。

その中の一冊に、ふと目がとまった。


「さ、紗和ちゃん! ほら、この写真、とてもきれいだよ。先輩のお父さんが作った作品の、作品集なんだ。も、もしかしたら、何かの参考に、な、なる、かも、しれないから、一緒に見たら?」


 卓己が何か言ってるけど、そんなことはどうでもいい。

なぜなら私は、最後に手にとった一冊の本に、完全に心を奪われていたからだ。


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