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白薔薇園の憂鬱  作者: 岡智みみか
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第3話

「ありがとうございます。だけど、できるだけ自分の手で取り戻したいんです」


 弱いから、父は静かに死んでいった。

弱いから、私は一人ここにとり残されている。

強くなりたい。

だからこそ私は彼を見上げ、にっこりと微笑む。

それが今の私に出来る、精一杯のこと。


「そうか、そうだったね。応援しているよ。ね、君の作った方のペーパーウェイトを見せて」


 私は引き出しを開けると、筆や使いかけの絵の具、工具類の投げ込まれたその中から、自分のウェイトを取り出した。


「これなんですけどね」


 それを見た瞬間、佐山CMOはとても驚いた顔をしたかと思うと、すぐにクスクスと押し殺したように笑い始め、やがてその声は遠慮のない大声になった。


「これは凄い! 対偶のペーパーウェイトの片割れが、こんな作品だったとは。そりゃ謎が謎のまま、残されているワケだ!」


 まあね。

この作品が作られた時、私と卓己は7歳前後だったのだ。

赤い絵の具で『さわこ』って、汚い字でただ文字を書いただけのウェイトと、その当時放送されていた、美少女戦隊のアニメキャラが描かれたもの。

家族の似顔絵だなんていう、小学校低学年の子供の落書きに、芸術的商業価値を見いだせる方が、頭おかしいっての。


「だけど、これが普通の子供だと思うよ」


 彼はケタケタと腹を抱えて笑いながら、まだ苦しそうにしている。

そりゃね、今になってみれば、卓己の才能が異常だったってのは、分かるんだよ。

分かるんだけど、でもやっぱり私は、その時にはちゃんとした子供だったから、子供らしくしっかり卓己にムカついたし、腹を立て嫉妬し、意地悪もしたんだ。


「彼は本当に、凄い人だったんだね」


 佐山CMOは、ようやく穏やかに微笑む。


「そしてそんな彼が三上画伯と出会えたのも、すばらしい奇跡だった」


 その言葉に私は、素直に笑みを浮かべる。

やっぱりこの人の口から出た言葉なら、素直に受け止められる。

黙って落ち着いて、冷静に聞いていられる。

そんなこと今まで一度もなかったのに、本当に不思議だ。


 突然、窓の外から車の急停止する音が聞こえ、直後に玄関のドアが開いた。

ドタバタという足音と共に二階に現れたのは、卓己だ。


「紗和ちゃん!」


 飛び込んで来た卓己は、佐山CMOの姿を確認すると、すぐに私に顔を向ける。


「紗和ちゃん。こ……、か……、は、颯斗さんを、このあ、アトリエに、あげたんだ」

「うん。そうだよ。対偶のペーパーウェイトの、残された半分を見たいって言うから」


 卓己は作業台に置かれた無様なウェイトに、チラリと目をやった。


「あぁ。これ……も、見せ、たんだ」


 彼は手を伸ばし、宇宙色のカップの横に置かれた青く懐かしい自分の作品を手にとる。


「これも、ここに戻ってきたんだ」


 それをじっと眺める卓己に、佐山CMOは声をかける。


「じゃあ僕はこれで。帰ります」


 卓己はビクリと佐山CMOを振り返り、その佐山CMOは私に向き直る。


「紗和子さん、今日は僕につき合ってくれてありがとう。また連絡するよ」

「はい。どうもありがとうございました。色々してもらって、本当に助かりました」

「僕はここでいいから」


 私が見送ろうとするのを制し、手を振ってアトリエ出て行く。

この人には、感謝の気持ちしかない。

いつかちゃんとお礼をしないと。

どうやってそれを返せばいいのか、まだ分からないけど。


 彼が待たせていた車に乗り込み走り去ったあとで、卓己はようやく口を開いた。


「このウェイトは、あの人に買ってもらったの?」

「だから違うって」

「じゃあなに?」

「もらったの」

「誰から?」

「秘密」


 しつこいな。

私は卓己にイラッとして、背を向けた。

開いていたアトリエの窓を閉める。


「私も疲れてんだよね。もう寝るから帰って」

「じ、実は僕も、あ、あの会場で、これを見つけた……んだ」


 卓己がスーツの内ポケットから取りだしたのは、紅の持っていたオレンジのウェイトだった。


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