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白薔薇園の憂鬱  作者: 岡智みみか
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第7章 第1話

 会場の外はすっかり暗くなっていて、佐山CMOの用意してくれた車に乗り込んだ私は、ガラス窓に映る自分の姿と、流れる風景を見ていた。


「紗和子さん。少し疲れた?」

「そうですね」


 私はごそごそとバッグの中の、ペーパーウェイトを取りだす。


「どうしようか。このまま夕食にでもと思っていたけど、すぐに家まで送った方がいい?」

「すみません。そうしてもらっていいですか」

「分かった」


 彼は運転手さんに用件を伝えると、改めて私の手の中の作品を見つめた。


「しかし、そのペーパーウェイトの彩色が卓己くんだなんてね。そうだと分かったら、またその価値がぐんと変わってくる」

「押し型は5種類あって、私と卓己にそれぞれの模様を一つずつ、全部で10個の型をとって、色つけさせたんです」

「それで対偶なのか」

「はい」


 美術商たちがアトリエに作品の買い取りに来たとき、引き出しの奥に入っていたこれを見つけた。

それをきれいに私の分と卓己の分とでより分け、卓己の方だけを持ち去っていった。


「私にも、絵の才能があればよかったんですけどね」


 鮮やかな青を広げた美しい花びら。

私はいつも、卓己と自分を比較していた。

そんなことをしたって、何の意味もなかったのに。


「実は僕も、絵を描くのが好きな子供だったんだ」


 静に走り続ける車内で、佐山CMOはゆっくりと話し始めた。


「だけど、絵が好きなのと上手いのとは違ってね。僕はそれに気づいた時、上手い人の支援に回ろうと思ったんだよ。自分で描く絵より、他の人の描く絵の方が断然好きだったしね。そうしていくことで、ずいぶん楽になった」

「そうだったんですね」


 私は悲しかったんだ。

自分がおじいちゃんの孫ではないと言われているような、そんな気がした。

卓己が家に来ると、おじいちゃんはとてもうれしそうにしていて、私のことなんかそっちのけで、ずっと卓己の相手をしていた。

卓己もおじいちゃんのことが大好きだった。


「嫉妬。してたんです。卓己に。今でもその気持ちが残っていて……」


 だけど拒むには、あまりにも距離が近くなりすぎていて、共に過ごした時間の重みが、互いを動けなくさせてしまっている。


「そんな風に思えるまで、私にはまだまだ時間がかかりそうです」


 おじいちゃんの孫だと紹介され脚光を浴びる次世代アーティストが、私自身だったらどれほどよかっただろう。

さすが三上恭平の孫だと、どんなに世間から言われたかっただろう。

美大に通い、みんなから認められて、アートの世界で話題になる。

その中心にいるのが、私。

そしたらあんなオバサマ方や小娘なんかにも、バカにされることはなかったのに……。


 ん? 小娘? 

私は大事なことを思い出した。


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