表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白薔薇園の憂鬱  作者: 岡智みみか
43/85

第3話

「見せてもらっても、いいですか」


 彼女は私の手の平に、それを置いた。

初めに指輪の内側を見る。

そこに刻印は何もなかった。

祖父の三上恭平が、宝飾品関係の作品を作っていたなんて話は聞いたことがないし、実際に見たこともない。

少なくともこの指輪は、おじいちゃんのアトリエに置かれていたものではなかった。


「いえ、見覚えはありません」

「そう。ならいいのよ」


 私は彼女の手に、その指輪を返す。

だけどこの作風は、おじいちゃんのものだ。

それだけは私にも分かる。

彼女はその指輪を、ぎゅっと握りしめ目を閉じた。


「はぁ? ばあさん。あんたこの指輪は、三上恭平からもらったって、いつもさんざん自慢してるじゃないか! だったら、コイツに証明してもらったらいいだろ。ちゃんとした鑑定書作ってさぁ! その方が価値も上がるし、売りやすくなるだろうが。それとも、三上恭平からもらったってのは、嘘だってことか?」


 なにそれ。

この人があんな質素な古い指輪を、大切にしてるってこと?


「うるさい。余計なことを言うんじゃない!」


 彼女は想の頬を、思いっきり平手で打ち付けた。 


「持ち出したカードも返しなさい!」

「イヤだね! なんで俺があんたなんかの言うこと聞かなくちゃいけないんだ! じいちゃんが死んだとたん、急にでかい顔しやがって!」


 おばあさまが合図を出す。

すぐ後ろに控えていたボディガードらしき男性二人が、想の両腕をガッチリと掴んだ。

彼は大声で何かをわめきちらしながらも、どこかへと引きずられゆく。

おじいちゃんのかつての恋人だった女性が、私を振り返った。


「見苦しいところを、晒してしまったわね」

「いえ、大丈夫です」


 彼女は自分の手の平に転がる、小さな指輪を見つめた。

これは、おじいちゃんがまだ若かった頃、恋人であったこの人のために作り、贈ったものなんだろうか。


「この指輪の価値を知っているのはね、私とあの人だけなのよ。だから、その価値を知らないあなたが盗み出すなんて、そもそもありえない話なの。想が勝手に盗みだした。どうせ私の目を盗んで、どこかに売りつけるつもりだったのね」


 もし本当にそうだとすると、彼女は太くなった指に入らなくなってしまった古い指輪を、今も大切に持っているということになる。


「私には、その指輪の価値は分かりません」


 彼女はフンと高らかに鼻をならした。


「そうね。それを知らないあなたが盗るなんて、ありえないわ。あの子が私を困らせようとしてやったことよ」

「それでも、あなたがこれを大切にしていることは伝わりました」


 じっとこちらをにらむように見つめる彼女の目から、何を考えているのか何一つとして読み取れるものはなかった。

それでもきっと、この指輪は彼女にとって大切なものなんだと思う。


「迷惑かけたわね。安心して。私もあなたが犯人だなんて、思ってもないわ。あなたが犯人になりえるなんて、ありえないのよ」

「ありがとうございます」


 それは彼女にとってはイヤミのつもりだったのかもしれないけど、私にはそんな風には受け取れなかった。

そんなおばあさまのの視線が、白磁の型押しに移る。


「そのペーパーウェイトは、お詫びに差し上げるわ。あの人の作品なんでしょう? そんなものでよかったら、大切にしてちょうだい」

「あ、ありがとうございます」


 私はそれをぎゅっと握りしめたまま、立ち去る彼女の背を見送る。

彼女だって知らないんだ。

この作品の、本当の価値を。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ