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白薔薇園の憂鬱  作者: 岡智みみか
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第5章 第1話

 扉の向こうにすでに想の姿はなく、特設会場の中も閑散としていた。

当然だ。

ここに並んでいたのは、オークション出品予定の作品たちで、それが始まってしまえば、決まった落札者のもとに次々と搬送されてゆく。

空っぽになった会場の中で、いくらちっぽけな手の平サイズのものとはいえ、こんなところにおじいちゃんの作品が残されていれば、目について仕方がない。

ということは、ウェイトを持ったままの想は、一般会場の方だ!


 私は可能な限りの早足で駆けるように廊下を進み、一般会場へと繋がる階段へ向かった。

西側の展示場では、特設会場に入れない一般参加者のために、オークションの様子を配信していて、多くの人々がそれを見上げていた。

今日はフェア最終日。

すでにあちこちで片付けが始まっていた。

どこに行った、想!


 ぐるりと見渡した人混みのなかに、明るい栗色のくるくる頭を見つけた。

アイツだ! 

想はエントランスに向かっている。

アートフェス会場から抜け出す気だ。


「待ちなさい、想!」


 人目も気にせず、私は大声を張り上げる。

ここで逃がすわけにはいかない。

居並ぶ人たちをかき分け走りだした私は、振り返った想の腕にがっしりと抱きついた。


「うわっ、なに!?」

「どこへ行く気?」

「あんたには関係ないだろ」

「じゃあ、あのペーパーウェイトは、どこにやったの!」

「はぁ? あんたもしつこいな」

「どこに置いたのか白状するまで、この手は離さないわよ!」

「えぇ~。直接聞いちゃうとか、そんなのアリ?」


 私を振りほどこうとする想の腕を、放されないよう必死でつかむ。


「ルールには、なかったでしょ!」

「俺、急ぐんだけど」

「私だって急いでるわよ!」


 何かを気にしているのか、想は二階会場を見上げた。

そこにはおばあさまが従業員たちと顔をのぞかせている。


「げっ。あのばあさ……。あぁもう、分かったよ。じゃあそれ貸して!」


 彼は私の持っていたバッグを奪い取った。


「何するの?」

「ほら。もういいから、あげるよ」


 想はポケットからおじいちゃんのペーパーウェイトを取り出すと、それをバッグに突っ込んだ。

おじいちゃんの作った、青いお花の型焼きされたペーパーウェイト。


「ね、これでいいでしょ?」

「ほ、本当にいいの?」

「いいよ。だからもう離して」


 抱きつくように掴んでいた想の腕から、私は手を離す。


「あ、ありがとう」

「じゃ。僕はもう行くから」

「う、うん」


 彼はせわしなく手を振ると、そそくさとエントランスへ向かった。

なんだよアイツ。

終わってみれば、結構いい奴だったじゃないか。

拍子抜けしてしまった私は、そっと小さく彼の背に手を振り返す。

意地悪なだけかと思っていたけど、そうじゃなかった。

からかったりされたのも確かだけど、もしかしてはじめから、私に渡すつもりもあった?


 バッグに加わったわずかな重みが、私の気持ちを軽くしてゆく。

やっぱり諦めずに、最後まで追いかけてきてよかった。

自分の顔がどんどんにやけていくのを止められない。


「やった! やったよ、おじいちゃん!」


 ペーパーウェイトの入った鞄を、鞄ごとぎゅっと抱きしめる。


「ちょっと待ちなさい!」


 突然の声に、ぱっと振り返った。

想と紅の祖母である豊橋良子が、全身の毛を逆立て、怒りに震えながら迫ってくる。


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