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白薔薇園の憂鬱  作者: 岡智みみか
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第4話

「その……。ずいぶんと熱心に、彼を見ているんだね」

「えぇ、まぁ。やっぱり見ちゃいますよね」


 おばあさまの真っ白な髪はくるくると巻いていて、少しぽっちゃりとしているものの、キリッとした表情は彼女の活動的な性格をよく表している。

おじいちゃんはあの人の、どこに惹かれたのだろう。

おじいちゃんと過ごした日々は、あの人にとって「幸運な時間」だったのだろうか……。


「へー、そうなんだ。紗和子さんは、ああいうのが好みなんだ」

「は? 何がですか」

「想くんみたいな、かわいらしい感じの年下」


 すねているような、からかっているような、佐山CMOの言葉に、私は急速に理性を取り戻した。


「違いますよ。なに言ってるんですか」

「俺もさ、結構悪くないと思うんだけど」


 そう言うと、佐山CMOはムスッと顔をそらした。


「なにがですか?」

「いや、俺がモテすぎるから、遠慮しちゃうのは分かるけどね」


 彼は不満そうに愚痴をこぼし始める。


「大体さぁ、俺と一緒に来てんのに、すぐにどっか行っちゃて、そのまま帰ってこないし。探したんだよ? そもそも君が俺と一緒にいてくれないと、邪魔者避けに誘ったのに、意味がないじゃないか」


 CMOは、いなくなった私を探してくれてたのか。

便利な魔除け扱いだとしても。

そう思うと、急に申し訳なくなってくる。


「……そうですね。すみません」

「ちゃんと俺の側にいて」


 ざわついたオークションルームで、ロット番号は進んで行く。

佐山CMOは受け取ったパドルを手に、時折私に作品情報をささやきながら、あーだこーだとしゃべり続けていた。

それに相槌を打ちながらも、私は想のくるくる巻いた栗色頭の動向に注視している。


 その想が不意に体を傾け、おばあさまに何か耳打ちをした。

彼女はそれにウンとうなずくと、想は立ち上がる。

会場を抜け出す気だ。

その気配を察した私は、勢いよく立ち上がった。

せめてもう一度、ちゃんとあのウェイトが欲しいとお願いしてみよう。

ここで逃がしては、もう絶対に手に入らない!


「すいません、ちょっと抜けます」


 動き出した私の腕を、佐山CMOはぐっと掴んだ。


「ちょ、離してください。想を追いかけなくちゃいけないんです」

「僕を残して?」


 ちょっぴり怒っているような、すねたような目で見上げられても、そう簡単に引き下がってはいられない。


「佐山CMOは、オークションを見てればいいじゃなですか」

「ねぇ、ずっと気になってたんだけどさ。仕事で来てるんじゃないんだから、いつまでもそのCMOって呼ぶのやめない?」

「あの、すみません。今めっちゃ急いでます」

「名前で呼んで」


 くっ。今はそんなこと言ってる場合じゃないのに!


「すいませんが颯斗さん。私は彼を追いかけたいので、行ってきます」

「どうしても行っちゃうの? まだ君のおじいさんの、絵の落札結果も見ていないのに? そのために今日は、僕とここへ来たんじゃなかったっけ」


 顔を上げ会場を見渡す。

想のオークションルーム出て行く後ろ姿が見えた。

このままでは、彼を見失ってしまう!


「お願いします、私を行かせて下さい。大事な用が出来たんです」


 私がこれほど焦っているのに、彼は何かを考え、少し間をおいてから言った。


「君は、このアートフェスをちゃんと楽しんでる?」

「もちろんです!」

「ふーん。そうなんだ。なら行ってもいいよ」


 助かった!


「じゃ、ちょっと行ってきます」

「でもさ、なにか困ったことがあったら、いつでも僕に相談することを、約束してくれ。分かった?」

「はい!」


 こんなことをしている間にも、想は行ってしまうのに! 

佐山CMOがのんびり小指を差し出すから、私はすぐに自分の小指を彼の指に絡める。


「約束ね。じゃあ、行ってもいいけど、ちゃんと帰ってきて」

「分かりました!」


 指が離れた瞬間、走り出す。

どこに行った、想! 

そして、おじいちゃんのペーパーウェイト! 

私は彼の後を追って、オークションルームを飛び出した。


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