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白薔薇園の憂鬱  作者: 岡智みみか
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第4章 第1話

 吹き抜けとなっている中央階段脇の二階通路から、階下を見下ろした。

会場の賑わいは、午後に入っても衰えていなかった。

一般展示会場となっている一階会場はもちろん、二階の入場制限のかかったオークションルームと、それをぐるりと取り囲む二階一般会場の通路にもブースがある。

どこをどう探そう。


 一階西側の展示場は、個人商店や、アーティストの団体とか、サークル的な要素の強いブースも並んでいた。

美大や、地方団体の工芸品なんかも展示販売されていて、大変な賑わいだ。

いくらあの生意気そうな姉弟でも、さすがに他人のブースに侵入していくことは考えられない。

ごちゃごちゃと混雑した所に放置したとしても、落とし物として届けられるか、心ない誰かが勝手に持って行ってしまうだろう。

この状況下で、事情を知っている自分たちのブース内に隠すとも思えないし……。


「よし。決めた」


 見下ろす一階会場に背を向ける。

私は捜索場所を、特設会場に絞った。

通路を進み、オークションルームと、その展示場になっている広間へ向かう。

チェックを受け人通りの減った連絡通路の向こうに、くるくると巻いた短い茶髪を見つけた。

弟の想だ! 

見つからないようしっかりと距離を取りながら、こっそり後をつける。

彼はグレーの細身のスーツに、すらっとした足と腕で、軽快な足取りで歩いていた。

抜群にスタイルはいい。

このままバレないよう後をつけ、彼の手からウェイトが離れた瞬間手に入れれば、条件クリアだ!


 想はおじいちゃんの大切な青のウェイトを片手に、ふらふらとあちこちを物色しながら歩き方をしている。

どうやら彼なりに、隠し場所を考えているようだ。

時々立ち止まってウェイトを口元に押しつけたり、手に持ったままぶらぶらと振り回してみたり、とにかくウェイトの扱いが雑な上に危なっかしい。

私は彼の後をつけながら、その様子にずっとハラハラしていた。

割れ物なんだから、もっと大事に扱ってよね!


 その想は展示会場前のロビーで、どうやら知り合いと鉢合わせたようだ。

ウェイトを片手にすっかり話し込んでいる。

想と同級生か、もしくは同じくらいの年齢の男の子たちだ。

私は彼らの視界に入らないよう、おつまみ程度の簡単な軽食と飲み物が振る舞われているロビーで、いつでも動けるよう気を遣いながら、人混みに紛れ想の監視を続けた。


 しばらくして、ようやく彼らと別れ、また一人で歩き始めた。

携帯を取りだし、しゃべり始めたと思ったら、すぐにそれを切ってポケットにしまう。

そこから彼は、特設会場の展示室内でじっと立ち止まったまま、動かなくなってしまった。

何を考えているんだろう。

どうでもいいけど、早く何とか動いてくれ。

私はもう一つの、紅の持つオレンジのウェイトも追いかけなくちゃいけないんだから。


 どうしたものかと思った瞬間、その想がパッと動き出した。

彼は間違いなく、隠し場所に検討をつけた。

足取りが速い。

それまでのふらふらした歩き方とは打って変わって、迷うことなく進む彼は、オークション出品作品の展示場になっている特設会場を抜けだし、自分たちのギャラリーブースへ向かっている。

表の受付は無人となっていたその中に入ると、パーティションの向こうに姿を消した。


 え? ここなの? 

こんなところに、あの手の平サイズのウェイトを隠そうっていうの? 

ちょっとズルくない? 


 白く薄い壁の向こうは、彼ら専用の荷物置き場だ。

パーティションの向こうをのぞき込まなければ、想の様子は分からない。

だけどそんなことをすれば、私が彼の後を追い、ここまで来たことが当然ばれてしまう。

だけど……。


 薄い仕切りの向こうで、ごそごそと何かをしている物音が聞こえる。

奥には他に誰かいるのか、会話をしているのは分かるが、その内容までは聞き取れない。

ここで私が顔をのぞかせれば、彼はいま隠そうとしているウェイトをルールに従い確実に手に取るだろう。

それはこの追いかけっこが、振り出しに戻るということなんだけど……。


 キッと顔を上げる。

覚悟を決めると、奥へと突き進んだ。

そんな所に隠されても、私には絶対に見つけられない。

だったらたとえ嫌がられても、顔を見せるしかない。


「すみません!」


 勇気を振り絞り、その中をのぞき込んだ。

奥の狭い空間は、やはり彼らの荷物置き場になっていた。

他の従業員の上着や鞄などの荷物、文具類や書類、梱包材なんかが並んでいる。

想と荷物番らしき男性が、私を振り返った。


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