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白薔薇園の憂鬱  作者: 岡智みみか
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第5話

「ねぇ、あなた。あのおばあさまとどういう関係? あの人、自分の利害と関わりのない人間とは、一切口をきかない主義なのよ。時間の無駄だとか言っちゃって。それなのに自分からわざわざ話しかけにいくなんて、とっても珍しいことなの」

「そうなんだ。悪いけど、理由は分からないわね。あの人の興味があるのは、私の彼氏じゃないの?」

「彼氏って、佐山商事の次男のこと?」


 ピクリと反応した紅に、私は腕組みして、思いっきり上から目線でにらみつける。

こんな年下の小娘に喧嘩売られて、大人しく引き下がるような私じゃない。


「さぁね。私は別にあの人のことなんて、なんとも思ってないんだけど。今日もね、彼に無理矢理誘われて、ここに連れてこられたの。そうそう、今着てるこのワンピースもね、ここにくる直前に、彼にお店に連れていかれて、そのままプレゼントされたものなのよ。ホント、困った人ね」

「あぁ、そうですか。よかったね」


 紅は興味なさげに視線を横に流した。

嘘はついてない、嘘は。


「あなたには、そんな素敵な恋人はいらっしゃらないのかしら?」


 紅はそんな挑発には乗らず、首を傾けた。


「こんなゴミみたいな作品の、どこがいいのかしら。正直言って、出来損ないだわ。三上恭平の名前がついてなければ、せいぜい千円か2千円程度の、どこにでもあるような、ただの重しよ」

「えぇ、そうかもね。あなたの目には、それはゴミのように見えるかもしれないけど、私にとってはそうじゃないの。れっきとした価値のある作品よ」

「自分には、その価値が分かるって言いたいの?」


 紅はオレンジのウェイトを口元に当てると、にやりと笑った。


「じゃあ、あなたはもし、私がこのペーパーウェイトをゴミ箱に捨てたら、あなたはそのゴミを漁って持ち帰るのかしら?」


 隣でずっと退屈そうに聞いていた想が、くすくす笑った。 


「それいいね、紅。捨てちゃえば?」

「だよね」


 紅は受付台のすぐ横に置いてあったゴミ箱に、ウェイトを持った手を大きく振りかざした。


「捨てたければ、捨てればいいじゃない! 例えそれが無名作家の作品であっても、誰かが作った大切な作品をゴミ箱に捨てるような人間は、美術商にはむいてないわ!」


 紅は振り上げた手を下ろすと、ふわりと巻いたミルクティー色の頭を傾け、じっと私を見つめる。


「そうね、分かったわ。あげるわよ。でもね、ただそのままあげるんじゃ、面白くないじゃない? ゲームをしましょう。この会場のどこかに、このペーパーウェイトを隠すのって、どう? 見つけたら、あなたのものよ」


 紅は自分の思いつきに満足したのか、フッと笑った。


「私たちが手に持っている間は、そこから奪いとっちゃダメ。同時に見つけた場合は、先に取った方が勝ち。どう?」

「ずいぶんとあなたたちに有利な条件ね。それをずっと手に持っていたら、意味ないじゃない」

「そんなずるいマネは、さすがにしないわよ。どうする? 私たちは別に、あなたにこれを譲っても譲らなくても、どっちだっていいのよ」


 ここで引き下がったら、もう二度とこのペーパーウェイトは手に入らない。


「わかった。やる」


 姉弟は示し合わせたように目を合わすと、にやりと微笑んだ。


「じゃ、俺はこっちね」


 想はテーブルに置いてあった、もう一つの青を基調としたウェイトを手にとる。

紅と想の二人がおじいちゃんのウェイトを手に、私の前に立ちはだかった。


「目をつぶって、ゆっくり30秒数えてちょうだい。そこからがスタートよ」


 覚悟を決める。

ぎゅっと目を閉じて、ゆっくりと心の中で秒を刻む。

1、2、3……、28、29、30!


 目を開けると、こぢんまりとしたブースに、困惑した表情のままの受付のお姉さんと、従業員らしき数人しか残っていなかった。

私はそこを抜け出すと、二階会場の通路から階下に広がる広大な会場を見渡す。


 ゲームの始まりだ。

あいつらはオークションの行われる特設会場にも入れるし、業者専門の一般参加者立ち入り禁止区域にも入れる。

よく考えてみれば、とんでもなく不利な条件だ。

それでも、やるしかない。

おじいちゃんの作品を撮り戻すためだ。

展示会場ののべ床面積は7万㎡。

壮大な宝探しが始まった!


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