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白薔薇園の憂鬱  作者: 岡智みみか
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第2話

 不意に、枕元に置いてあったスマホが鳴った。

仕方なく布団から顔を出すと、画面に『佐山CMO』と名前が出ている。

部屋の空気がピタリと止まった。

卓己はその画面に、すっかり凍り付いてしまっている。


「あ、あのね、卓己。この人は私と同じ会社の人で、仕事の上司だからね」


 卓己さえいなければ、こんな電話無視したって構わなかったのに。

逆に彼が今ここにいるからこそ、電話に出なくてはならなくなった。


「はい。なんですか?」


 卓己の死んだような視線を一身に受けつつ、仕方なく通話ボタンを押す。


『あぁ、やっと繋がった。メールの返事がないけど』

「見ました」

『見ましたじゃないよ。返事って言ってるんだけど』


 なんて書いてあったっけ。

その内容を思い出す。

あぁそうだ。

前回のお詫びと、卓己によろしくって話だ。


「大丈夫ですよ。私、もう気にしてないので」

『それでさ、これはちょっとした提案なんだけど』

「提案?」


 電話の向こうから、佐山CMOの座る椅子がキュと回る音が聞こえた。


『近々ダダビーズも協賛している、大規模なアートフェスがあるんだよ。主な出品予定のカタログを見ていたらね、三上恭平氏の絵画が、3千万からオークションに出る予定になってたんだ』

「は? なにそれ、本当ですか?」


 そんな珍しい話、めったにあるものじゃない。


『まぁさすがの僕でも、それを君に買ってプレゼントすることは難しいけど、個人収集家の手に渡ってしまったら、本物を目にする機会は極端に失われてしまうだろ? いまのうちに、見ておいた方がいいんじゃないかと思ってね』


 確かにそれはそうだ。

教科書に名前が載るような有名作家なら、どこかの美術館で作品展の開催はあるけど、うちのおじいちゃんみたいなマイナー作家は、一度個人の手に渡ってしまえばよほどのことがない限り、二度と本物にお目にかかることはない。

千載一遇のチャンスとは、このことだ。


『一緒にどうかな?』

「分かりました。行きます。いつですか?」


 メモのためにペンを取ったら、卓己と目があった。

私はそれに構わず、近くにあったティッシュペーパーの箱にペンを走らせる。


「え? 来月の第二土曜日ですか? あぁ、はい。分かりました。大丈夫です」


 私はその日付をメモに書き取ると、ぐるぐると丸でかこんだ。


「はい。ありがとうございます。えぇ、詳しいことはまた後で」


 通話を切る。

私はふーと長く息を吐き出した。

3千万か。

おじいちゃんって、本当に凄い画家だったんだな。

さすがにそれを欲しいとは思わないけど、見られるのなら見られるうちに見ておきたい。

もそもそとベッドから起き上がる。

どんな絵だろう。

誰よりもおじいちゃんの近くで色々な作品を見てきたけど、その全てが記憶に残っているわけではない。

タンスに手を伸ばし着替えようとして、卓己と目があった。


「さ、紗和ちゃん。ぼ、僕との約束は?」

「え? なに? なんかあったっけ」


 そう言った瞬間、フルーツパフェのことを思い出した。


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