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白薔薇園の憂鬱  作者: 岡智みみか
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§2『対偶のペーパーウエィト』 第1章 第1話

 その日、卓己は朝っぱらからうちに押しかけてきたうえに、非常に機嫌が悪かった。


「だから、なんなの?」


 何を聞いてもじっと黙ったまま答えないから、私は自室のベッドにもぐり込む。

卓己はベッドサイドの椅子に腰掛けたまま、長すぎる足と腕を組んで、とにかくイライラしていた。


 幼稚園入園当時からの幼なじみで、しょっちゅう家に出入りしていた卓己は、一人の男性というより、双子の姉弟みたいなもんだ。

ノーブラ、パジャマ姿で寝起きを見られたって全然平気だし。

たった一人の家族となった父を亡くしてから、卓己の両親が私の親変わりを務めてくれている。

この家の鍵も預けてあった。


「用がないなら、寝るからね」

「……だ、だから、こないだ……は、なん……で、あんなにお、遅くなった……の?」


 彼はもさもさの前髪の奥で視線を泳がしつつ、恐る恐る文句を言う。

卓己はいつだって私に強く当たれない。


「もうその話は、さんざん説明した」


 おじいちゃんのカップを取り戻すためにめちゃくちゃ苦労して、やっと手に入れたんだって。

そんな話を長々として、アトリエに飾ったカップもしっかり見せている。


「だからそれは、あ、あの日にしていたことで、ぼ、僕が聞いてるのは……。だ、だから、なんでって……話!」

「しつこい」

「答えて」


 ベッドでごろりと背を向ける。

これ以上話すことなんて、なにもない。


「……。だ、だって! さ、紗和ちゃんは、僕がいつ誘ったって、い、一緒におでかけしてくれないじゃないか。それなのに、な、なんであの日は……、あ、あんなワンピース、なんか、着て、か、かわい……く……」

「だから、おじいちゃんのカップを取り戻すためだって言ってるでしょ!」

「……。やっぱり、最初から、僕とオークションに、行っておけば……」


 私はガバリと起き上がると、卓己を怒鳴りつけた。


「あんたとは絶対おでかけしない!」

「なんで!」

「なんでも!!」


 ガバッと布団を頭からかぶり、再び閉じこもる。

卓己なんかと出かけたら、先日の佐山CMOみたいになることは分かってる。

卓己ばかりがちやほやされて、すぐに私はおいてけぼりだ。

自分だけを構ってほしいとか、そういうことを思ってるわけじゃない。

本気でなりたかった理想の姿である卓己に、今も激しく嫉妬している。

そんな自分なんて、出来るものなら見たくない。


「……。紗和ちゃん。こ、こないだ、駅前に新しく出来た、カ、カフェのパフェ、食べたいって言ってたよね。ぺ、ペア割り……やるの、知ってる? あの、フルーツ盛り盛りの、でっかい……やつ。単品だと三千円、する、やつが、ペア割りだと、2つ……で、五千円に、なるの」


 え? 何それ安くない? 

私は布団の中で、もぞりと動く。


「そ、それさ、ら、来月の……、だ、第二土曜、だけ、開店、き、記念セール、で、特別にやる……、らしいよ」


 頭まですっぽり被っていた布団から、指の先だけを外に出した。


「ホントに?」

「僕は、紗和ちゃんに嘘なんかつかないよ」


 来月の第二土曜日か。

特に用事はないし、駅前にいくならついでに他の買い物も……。


「さ、そ……。その日は、紗和ちゃんのお誕生日だし……。ぼ、僕がパフェおごる。お、お誕生日プレゼントだから! ……い、いい……でしょ?」


 誕生日? あぁ、そうだったっけ。

もう少しだってことは分かってたけど、第二土曜だったとは知らなかった。


「まぁ、誕生日だしね」

「そうだよ。た、誕生日プレゼント、と、クリスマス、プレゼントは、お、OK、なん、で、しょ?」


 それ以外で、「物」は受け取らないようにしている。

ただし食品は別。

そう決めてから卓己は、いつも食べ物を抱えてうちに来るようになってしまった。


「で……さ。紗和ちゃんに、おねが、お願いしたいこと……が、あるんだ」

「お願い?」


 のそりと布団から顔を出す。


「あのね、こ、今度、うちの事務所のスタッフが、あ……新しく出品したいって、思ってる、展示会があって、そ、そ……そこにさ、一緒に……」


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