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二人のトワイライト  作者: ニシロ ハチ
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第一章 4


「有線で聴くんだ。珍しいね」僕は正直な感想を言った。

「うん。最近、ちょっとだけ嵌ってて」リンゴは、恥ずかしそうにはにかんだ。

 リンゴのいるデスクの上とその周りには、イヤフォンとヘッドフォンが合計で十台程あった。更に、彼女を中心として大型のスピーカが組まれている。アンプも三台あった。ケーブルだけが床に置かれているので、相当な拘りのようだ。完璧なシステムを組むというより、試行錯誤しながら、音の違いを楽しんでいるのだろう。

 リンゴの親であるキンギョの年齢は百二十歳だ。彼が子どもの時なら、こういう趣味も多かったのかもしれない。


「依頼の事で詳しくききたいんだけど」僕は言った。丁寧な言葉を使うか迷ったが、相手に合わせる事にした。その方が親近感を持ってくれて、スムーズに進むかもしれないと、考えたからだ。出来れば、ネオンとリンゴが仲良くなって欲しい。僕は向いていないだろう。

「私も知らないから、ケンゾウに言って欲しい」リンゴはすぐに返す。

「ネットに繋がらないんだけど、理由を知ってる?」

「ここのシステムは完全に独立しているから、一般的な検索は出来ない。警備システムを組んでるけど、そっちもアクセス出来ない?」

 メニュー画面を開いた。視界に半透明の文字と記号が現れて、そこから探した。見慣れないマークがあったので、それを選択すると、パスワードが必要だった。

「パスワードがいるみたい」僕は言った。

「なんだったけな?」リンゴは天井を見上げた。「ちょっと待って。数年前の記憶だから、曖昧で。えっと、あれかな」リンゴは、二十桁の数字とアルファベットの羅列を、スラスラと言った。文字や意味があるわけではなく、完全にランダムに思える。もし、覚えているのだとしたら、恐ろしい才能だ。

 僕はそれを入力する。入力する時は、僕の場合は、両手の指を使う。ピアノの鍵盤を押す様な動作だが、ポケットに手を入れたままでも可能だ。ネオンは、右手の人差し指を空中で動かしている。あの入力方法だと、二十桁は苦労するだろう。

「ダメだ。パスワードが違うみたい」僕はもう一度、リンゴの言ったパスワードの部分を再生して、入力した。やっぱり、違うようだ。

「おかしいな。七年前だから、パスワードが変わったのかも。お父様にきいておく」リンゴは、端末に向かって、操作した。

「君の警備に当たっているのは、二人だけ?」僕はリンゴの背中に言った。

「リンゴね。名前。覚えてる?さんや様もいらないから」彼女は、一瞬だけ僕を振り返った。

「リンゴの護衛には二人だけなの?」僕は言い直した。

「もう一人、三日前から、護衛の人がいたけど。ポパイって名前の人」リンゴは、端末を見たまま言った。

「その人は、エンプティ?」

「もちろん」

「警備シ……」

「警備システムのパスワードはどうしたのか、の答えは、その人はお父様が派遣した人だから、初めから知っていたと思う」リンゴは、端末を操作したまま淀みなく言った。

 僕は驚いた。頭は切れるようだ。本当にパスワードを、あの短時間で思い出したのかもしれない。そういえば、去年に社会関連と工学関連の二つの論文を発表していた。つまり、学業を終えた事になる。同年代と比べても、異常な早さだろう。


「ポパイさんは、今どこにいるの?」僕は、部屋の中を見渡す振りをした。もちろん、僕たち三人しかいない。

「知らない。面白そうな人じゃ……。なんでもない。真面目に働いてると思う。はい。これがパスワード」リンゴはこっちを見た。

 複数あるモニタの左上に二十桁の英数字の羅列があった。リンゴが言ったパスワードと一致するのは、ランダムである事だけだ。僕は、それを入力した。

「早くして。お父様が一分後にパスワードを変えるみたい」リンゴは言った。対策はしっかりしているようだ。つまり、リンゴが言ったパスワードは、当時のものなのだろう。

 パスワードを入力して、システムの中に入った。馴染みのないシステムだが、それなりの人がデザインしたらしく、直感的に操作出来る。

 いつも使っているネットにはアクセスできないので、その修正が必要だし、警備システムの中に検索エンジンがあるはずもないので、使い勝手が悪そうだ。イオとの連絡も出来ない。

 出来る事を把握する為に、時間が必要みたいだ。


 リンゴは父親と連絡を取ったみたいだが、可能なら直接会いたい。マツリノ氏には伝えたい事がある。

 今回の護衛だが、一番の理想は、マツリノ氏とリンゴを、僕らの組織で匿う事だ。ほとぼりが冷めるまでは、安全に暮らしてもらい、時間が経った後に開放する。二人の身の安全を考えるなら、それが一番良い。でも、そう簡単にはいかないだろう。

 マツリノ氏は、警備システムを組んでいる。これは界隈では少しだけ有名だ。マツリノ氏の警備システムを高く評価している専門家もいるくらいだ。彼が独自の警備システムを組んだのは、彼の事業が成長して、軌道に乗った後だ。使い切れないお金が手物に残り、それを守る為に城を築いたのだろう。

 リンゴの護衛を依頼したのは、火の粉が掛かるのを恐れたのと、リンゴが身勝手に動くのを抑止する為でもあるはずだ。その為の、最小限の配置だ。彼は、警備システムに自信を持っている。だから、それを捨ててまで、僕らの怪しい組織の管理下には来ないだろう。僕にだって、どんな組織かわからないくらい怪しい組織なのだから。

 でも、リンゴの身を案じているのも確かだ。だから、彼女の身に危険が迫るとわかれば、考えてくれるのではないだろうか。

 彼には、死んでもらっては困る。

 その為には、最善を尽くさないと。


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