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二人のトワイライト  作者: ニシロ ハチ
33/37

エピローグ 1



 彼女は、暗い部屋で目が覚めた。

 天井は高く、部屋も広い。

 彼女は、この広い部屋の端を見るのを恐れていた。真っ暗な部屋は、足元を照らす僅かな照明やモニタの光しかないので、光が壁まで届かないからだ。この部屋はとても静かだ。静かなのに、暗闇でなにかが動いている音がする。

 それは、生物ではない。

 機械の音だ。

 水の音だ。

「やぁ、起きたかい。調子はだうだね?」ドクタの眼鏡に光が反射して瞳が見えなかった。

「少し頭痛がします。腕も痛いです。特に、関節が外れた様な気怠さがあります。でも、実験は続けられます」彼女は、少し怯えながら言った。体の不具合は正確に伝えなければならない。でも、それによって、計画が止まった事はない。つまり、彼女の体調はどんな時も、支障が無い事になる。痛みを訴えて、彼女への待遇が変わることもない。

「そうか。腕の痛みは、アームを外した事によるものだろう。それだけ、リンクしているという事だ。だが…」ドクタの『だが』という言葉に、彼女は体を一瞬だけ震わせた。怒られると思ったからだ。「試作機では、やはり、性能を引き出すことが出来ない」

 怒られないとわかり、彼女は、少しだけ体の緊張を解いた。

「あれを見たまえ」ドクタが言うと、照明がついた。彼女のベッドから十メートル程の所に、それはあった。

 私の体が、そこにあった。

 私の体は、上からの照明で照らされている。

「次はあれで、お披露目といこう。私の計画では、君は今頃、注目の的になっているはずだったのだが、ケチってしまったのがいけない。これは、私のミスだ。反省している。ところで」

 ドクタが彼女を見た。口元は笑っているが、眼鏡の中の目は、一切笑っていなかったのを彼女は見た。

「なぜ、暴走したのかね?一体誰が、それを許可したのかな?」

 彼女は、謝罪の言葉は並べた。それでも、ドクタの目は変わらなかった。

「私は、なぜ、勝手な行動をとったのか、ときいたのだ。謝罪が聴きたいのではない」ドクタが言った。

「よく覚えていません。申し訳ございません」彼女は、ドクタの顔が怖くて見えなかった。自分が嘘を付いているからだ。

 彼女は知っていた。

 もう、とっくに気付いていた。

 ドクタはいつも、自分の体調を気に掛ける。自分が計画のコアになるので、壊れてしまったら、全てが台無しになるからだ。

 でも、自分はもう、とっくに壊れている。

 それがいつからなのかは、わからない。

 もしかしたら、生まれた時からなのかもしれない。

 でも、確かに、自分は壊れている。

 修復出来ない程に。

 彼女は、それを自覚していた。

 それなのに、彼女はそれが言い出せない。

 言ってしまえば、捨てられるかもしれないからだ。

 それは、自分が壊れている事より、ドクタに怒られる事より、辛く苦しい訓練よりも、怖いことだ。

「一つだけ、知りたい事があります。質問しても、よろしいでしょうか?」彼女は怯えながら自分の体を見ているドクタに言った。

「なんだね?」ドクタは、彼女を振り返って言った。

「私を倒したエンプティは誰ですか?」

「あれは、ベイビィ・ブルーだ。この件に関わっているとはな」

「また会えますか?」

「次は勝てるか?」

「はい」

 あのエンプティは、笑っていた。

 だから、壊したい。

 自分の手で。

 ……。

 やっぱり、壊れている。


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