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二人のトワイライト  作者: ニシロ ハチ
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第四章 2


 ケーキを食べている。チーズケーキだ。

 こんなにケーキを食べるなんて、これまでの人生に無かった。間違いなく原因は、ネオンにある。賞味期限が近いのだろうか。冷たい紅茶にガムシロップを二つ入れて飲んでいる。

「このペースで消費すると、期限の二月前には、全て飲み切る事が出来ます」とイオが教えてくれた。

「なんか、ずっと昔の事のようですね。まだ、二週間しかたっていないのに」向かいの席に座るネオンは、ケーキを笑顔で食べながら言った。ケーキを食べるだけで笑顔になれるなんて、幸せな人だ。

「予想していたより、動きは少なかったね」僕は答えた。

「そうですか?変化は大きかったと思いますけど」

「視点が違うのか、予想が大袈裟だったのか、どちらかだね」

「ジョークですか?」ネオンは首を傾げた。

「違うけど」

「そろそろ、時効だと思うので、あの時の事を教えてください」

「時効ってそんなに短かったっけ?」

 紅茶を一口飲んだ。最近は、僕が忙しかったので、夕食の時以外にネオンとは、会っていなかった。

「どうでしょうか?」ネオンはニコッと笑った。そういう憎めない笑顔が上手だと思う。

「そうですね。まず、ポパイさんの件は、どう絡んでいたんですか?蜘蛛の死骸もわかりません。私の予想では、ナツさんが犯人だと思うんですけど」ネオンは言った。

「ナツさんは、あまり関係ないんだ」

「えっ?」ネオンが僅かに眉を寄せた。「それじゃ、誰がポパイさんをやったんですか?」

「あれは、僕がやった」

「はっ?」さらに皺が寄った。

「僕は、ポパイさんが屋敷の中に入って行くのを見た。彼の行動の全てを共有して貰っていたから、目的が充電だとすぐにわかった。とういうより、充電に向かうのを見張っていたからね。彼がバッテリィを交換している無防備な時に、首を切断した。ついでに、証拠も消して、戦闘能力も排除しておいた」

「ポパイさんが、ベルさんのやったことを伝えたら、仕事に影響が出ると思います」

「それはないと思っていた。彼はどう攻めるのがいいか、という敵側の見方をしていた。元々暗殺者側の人間だったんだ。地理情報を得るスパイとして、護衛に付いたんだろう。だから、彼を排除しても、リンゴやマツリノ氏に連絡する事はないと思っていた。もし、連絡しても、僕は裏切り者を排除しただけだと、言い逃れが出来るしね」

「ホントですか?でも、ポパイさんが裏切り者なら、最初から、そう言わなかった理由はなんですか?」

「既に排除した裏切り者がいた事実よりも、味方が何者かに排除されたと思われた方が、都合が良かったからかな」

「もし、ポパイさんがちゃんとした雇われた人だったら、その時は、どうしたんですか?」

「なんだっていい。例えば、ナイフで壁を切り裂いて、それらしい模様を付けてもいいし、武器を地面に捨ててもいい。その時の状況を見て、臨機応変に動けば良かった。もし、なにも出来ない様な状況なら、リンゴを脅す様な脅迫のメールを送り付けてもいい」

「でも、ベルさんの視覚映像を見ましたけど、そんなのは映っていませんでした。それに、リンゴは、ベルさんの見ていた映像を管理者として、見る事が出来るんですよね。危うくないですか?」

「実は、屋敷の二階のカプセルの置いてある部屋のドアノブに手を掛けた所で、映像を編集しているんだ。まず、僕は、屋敷に入って、ケンゾウさんと話した。その後、二階に上がって、ドアノブを回して部屋に入り、バッテリィを交換中のポパイさんを排除した。その後、一度部屋を出てから、同じ姿勢でドアノブを回して、破壊されたポパイさんを発見した。一度目に部屋に入った映像をカットしても、違和感の無い様に、全く同じ視点、同じ姿勢でドアノブを回していた。映像をカットするのは、数秒で出来る。後で調べられると困るから、みんながいる場所で、予め、僕から編集済みの映像を送った。それにより、わざわざ調べられる事も無く、やり過ごせた。ただ、よく映像を見ると、カットしている分、僕が屋敷に入ってからの時間が短いんだ。それを誤魔化す為に、その後で皆に送った二つ目の映像も、リンゴの食事辺りから送った。最初から送って、ネオンと時間が数十秒だけ違っていたら、誰だって違和感を持つからね」

「ああ。そうですね。言われてみれば、その通りです。なんのためにそんな事をしたんですか?警備の強化をしろとか、気を緩めるな、とかそういう意味ですか?」

「…まぁ、そんなところかな」僕は嘘を付いた。本当の理由は、失敗に終わった。その為に、色々と画策したのだが、結局、今回も失敗したのだ。

「どうして、私に教えてくれなかったんですか?」

「ポパイさんの件には、あまり関わらない方がいいって、忠告はしたけど」

「足りないと思います」

「まぁ、結果的には、敵勢力を排除したけど、その後に僕は、嘘を付いたからね。そういうの、嫌いなんじゃないかと思って」

「嫌いです」ネオンは即答した。

「うん。言わなくて良かった」

「でも、そのせいで、人を疑ってしまったんです」ネオンは、唇を尖らせた。

「まぁ、そっちの方が安全だし」

「ナツさんが、ポパイさんを排除したんだと、思ったんですよ。その裏にリンゴがいるとも思いました。私が、リンゴの護衛に迷いが出たらどうするんですか?」ネオンは、眉を寄せている。

「でも、リンゴの身に危険が及んだら、全力で守るでしょ?」

「……そうですけど」ネオンは、溜息をついた。「蜘蛛を殺したのもベルさんですか?」

「あれは、ポパイさんだね。殺した理由はわからない。蜘蛛が嫌いなのかな?それとも、トラウマがあるとか」

「蜘蛛のエンプティと関係があるんでしょうか?あの姿を見てから、蜘蛛がトラウマになったとか」

「あり得るかもね。あの蜘蛛型のエンプティは、西側エリアの地形にも詳しかったし。ポパイさんが映像を提供したのなら、辻褄が合う」

「では、あの蜘蛛のエンプティは、どうしてリンゴを狙っていたのですか?」ネオンは紅茶を飲んだ。

「さぁ、それはホントにわからない。是非、本人にきいてみたいね。今回の件で、あれだけが、イレギュラだった」

「ベルさんは、ああいう手足を増やすのは、現実的じゃないって言っていましたけど、見事に動かしていたと思います。まるで本物の生き物みたいに」

「そうだね。僕はそれを、ずっと考えていた。今回の一番の謎は、あの素晴らしい操作能力だろう。普通の人間には無理だ」

「では、どうやったのですか?もしかして、手足の四本以外はコンピュータがアシストしていたとかですか?」

「うん。それも考えた。でも、違うと思う。たぶん、一人の人間が操作したんだよ。二か月前の僕なら、僕は絶対に辿り着かなかった答えがあるんだけど、ある人物に会ったから、それも可能かなって思っている」

「アミダですか?」ネオンはすぐに答えた。「もしかして、アミダがあれにダイヴしたって事ですか?」

「いや、そうじゃない。アミダが複数のエンプティに同時にダイヴ出来るのは、生まれた時からそういう環境だったからだ。いくらアミダでも、あの体は慣れていないから、操作は出来ないだろうね。でも、パイロットが生まれた時から、あの蜘蛛型エンプティにダイヴしていれば、操作が可能かもしれない。それこそ、生身の体に支障をきたすだろうし、非人道的だろうけど。もしかしたら、その反動で、生身の運動能力が著しく低下しているかもしれない。生身の自分の体の動かし方に、慣れていないって事だね。生まれて、這って移動したり、歩いたりするよりも前に、あの蜘蛛型の体で生活していたんだ」

「そういう実験が行われていた、という事ですか?」ネオンの顔が歪んだ。

「さぁ、詳しくはわからない。でも、自分の体に慣れるよりも早く、あのエンプティに慣らす必要があるはずだ。その為には、本人の承認なんてとっている暇はないだろうね」

「そんな事、許されるはずがありません」

「あくまで憶測だよ。AIのアシストという可能性もある」僕はゆっくりケーキを食べた。

 思った通り、ネオンは怒っている。この話をすると、そういう反応をするだろうと思っていた。確かに許せない事だし、繰り返してはいけない。

 でも、もう、どうしようもない。既に、終わったことだ。今更、パイロットを救う事なんて出来ない。そんなことを言っては、多分、ネオンは僕に失望するだろう。それでも構わないが、今は、黙っていることにした。

「他に質問はないの?」僕は話題を変えた。

「そうですね。実は、これが本題なんですけど、どうして、ベイビィ・ブルーが現れたのですか?ずっと現役を引退していたはずですけど」ネオンは僕の目を見て言った。

「引退なんてしていなかったんじゃない?」僕は答えた。

「ずいぶんと他人行儀な言い方ですね」

 ネオンは目から光線でも出すように見つめてくる。

「どういうこと?」なにか言ってほしそうな顔をしていたので、わざと惚けてみた。

「ベルさんがベイビィ・ブルーの体に、つまり、エンプティにダイヴしていたんじゃないですか?」

「なにか証拠があるの?」顔の表情を変えない様に意識した。

「いえ、ただ、あの時、私のダイヴしていたエンプティの脚が敵に壊されたので離脱しました。これは、既に報告済みです。その時に、次の指示を仰ごうと、ここに来ました。そしたら、ベルさんは、見たことがない専用端末でダイヴしていました。ベルさんは、私よりも先に排除されて、離脱したはずなのにです。あの場面で呑気に観光地に行くわけがないですよね」

「それだけ?」

「はい」ネオンは頷いた。

 それだけだと、憶測の域を出ないので、どうとでも誤魔化すことは出来る。推理にもなっていない。願望に近いだろう。

「まぁ、その通りかな。これは、トップシークレットだから、誰にも言っちゃ駄目だよ」

「はい。勿論です。……。あの、つまり、どういうことですか?ベイビィ・ブルーと面識があって、エンプティを譲りうけた、という事ですか?」ネオンは明らかに、興奮している。それを必死に抑えようとしているのがわかる。

 ………。

 どう答えるか、三秒考えた。その間に紅茶も飲んでおいた。エンプティでは出来ない、便利な機能だ。

「実は、僕は物凄い長生きしているんだよ。だから、ベイビィ・ブルーは元々僕だった。最近はとある計画の為に、ホワイト・ベルで活動していただけなんだ」

 ネオンはジッと僕を見つめる。なんとなく微笑んでおいた。

 突然、耳鳴りがした。

 僕は周りを見渡した。僕の体がおかしくなったんじゃない。どこかから音が出ているからだ。

「これなんの音?」僕はネオンにきいた。

「嘘ですね」ネオンが言った。

「えっ?」

「この音が聴こえるんですか?」

「うん。なにかしたの?」少しだけ、ネオンを警戒した。

「モスキート音です」ネオンがポケットから携帯端末を取り出した。「すみません。先に失礼をお詫びします。でも、ベルさんは、長生きをしているわけではありません。三十代より上の人はこの音が聞き取れませんから」ネオンは携帯端末を操作して、耳鳴りの様な音を止めた。

「へぇ、面白いね」僕は素直に関心した。「でも、手術で聴力を補っているのかもしれないよ」

「その可能性は限りなくゼロに近いです。私の前職の関係で、年齢を装う人にも多数会いましたが、そのすべてが見た目を変えただけです。視力の場合は、自分で衰えていることにも気付く事が出来ますが、聴力の高周波の帯域は自分では、気付く事が出来ません。日常生活では全く使わないからです。なので、どんなにお金持ちで若作りしている人でも、この方法で見抜く事は簡単に出来ました。偽装方法としては、側近に若い人を置いて、その人から合図を貰うか、専用のマイクの様な機器を持ち歩く位でしょうか。でも、今はそのどちらでもありません」

「ふーん」僕は頷いた。確かにこの方法なら、高確率で判別可能だろう。でも、例外もあるのではないだろうか。どんなケースなのかはわからないが。

「因みに、この音は聴こえますか?」ネオンは端末を操作した。

 さっきと似た様な音が鳴った。さっきよりも小さいのか、高いのか、恐らく後者だろう。

「聴こえるよ」僕は答えた。

「止まった時に合図をください」

 僕は頷いた。しばらく、気持ち悪い音が続いた。

「なるべく早く止めて欲しいけど」僕は言った。

 もうしばらくして音は止まった。

「止まったね」僕は答えた。

「本当に聴こえるんですね」

「そう答えたけど」

「だったら、私と聴力は殆ど同じです。老化による衰えが一切ない状態です。ベルさんは、見た目通りの年齢だという事になります。それは間違いありません。なので、ベルさんはベイビィ・ブルーからエンプティを譲りうけたのか、借りているのか、どちらかになります」

「なるほど」僕は頷いた。「まぁ、あの体は、つまり、ベイビィ・ブルーというエンプティは、今のところ僕が所有している。それは間違いないよ」

「ベイビィ・ブルーの生身に会ったことはありますか?」

「ないよ」

「ベルさんの実力を認めたという事なんでしょうか?」

「さぁ、わからない」

「あの蜘蛛のエンプティを排除したのは、ベルさんですよね」

「そうだね。あれはベイビィ・ブルーに、僕がダイヴしていた」

「キンギョさんに支給されたエンプティとベイビィ・ブルーは、そんなに性能が違うのですか?」

「うん。全く違う」

「ベイビィ・ブルーにダイヴすれば、無敵ですか?」

「いや、どうだろうね。あの蜘蛛型のエンプティも素晴らしい性能だった。僕に有利な条件で戦ったから、勝てたけど、例えば、都市で武装もありなら、負けたかもしれないね」

「謙遜ですか?」

「いや。本当だよ。山の中だから長い手足が邪魔だったはずだよ。今回は暗殺のルールで武器も制限されていた。本来、あのエンプティは、高層ビルなどを、蜘蛛みたいに移動して、搭載した銃火器で殲滅するタイプだろう。あれは、対エンプティというより、対人兵器に近い。どこにそんな開発費があったのかは知らないけど。まぁ、余程お金が余ってるってことかな」

「あの…」ネオンが言いかけて、黙った。話をまとめているのだろうか。その間にケーキを食べることにした。

「今回の仕事でずっと気になっていたんですけど、今も言った暗殺のルールは、どうやって入手したんですか?」鋭い指摘なのに、ネオンの表情は、その真逆だった。「もう一つ、疑問があります。蜘蛛のエンプティがベルさんを排除してから、ベルさんは、ベイビィ・ブルーにダイヴしたと言いました。でも、ベイビィ・ブルーは、キンギョさんが所有する敷地内に、元々待機していました。位置としては、リンゴの屋敷から西に進んだ先にある廃墟の中です。あの時、ベルさんから指示があったので、私はあの廃墟の周辺を見ていましたが、あれは、ベイビィ・ブルーを隠す場所を探していた、という事ですよね。なんの為にベイビィ・ブルーを待機させたのですか?リンゴがシェルタにいれば、あの蜘蛛のエンプティが襲ってきても、無事だったはずです。ベイビィ・ブルーはどう考えても不要なのではないですか?」

「隠したのは、契約違反だからだよ」僕は答えた。「そこまでわかっていて、君はどう考えているの?」

 ネオンは明らかに、嫌悪の表情を見せた。嫌いな物を食べた時のような。気持ち悪いものを見た時のような。

「敵はプロだったはずです」ネオンはゆっくりと発音した。「なので、暗殺のルールが漏れるなんて事はあり得ません。成功報酬が無くなる程の、いえ、今後の仕事が無くなる可能性がある程のルール違反だからです。なので、ルールを知る方法は、二つです。一つは、暗殺のルールを決める人間。つまり、暗殺の依頼者です。もう一つは、暗殺のルールを聴く事が出来る人間です。つまり、暗殺を依頼され遂行する側なら、そのルールを知っていて当然です。ベイビィ・ブルーを待機させていた場所から、キンギョさんの屋敷まで、ベイビィ・ブルーなら三分も掛かりません。これは、暗殺において大きなアドバンテージではないでしょうか?」

「つまり、僕がマツリノ氏を殺そうとしていたということ?」

「いえ。でも違います」ネオンは複雑な顔になった。「だって、ベルさんは結局、リンゴを助けて、キンギョさんも殺しませんでした」

「マツリノ氏を殺した人物は、今もわかっていないはずだよ。マツリノ氏は殺された時、屋敷の中にいて、部屋の中には、カメラもなかったから」

「私が調べた結果、キンギョさんの部屋の窓が、割れているのがわかりました。窓の外から銃で狙撃した人物がいるのです。ベイビィ・ブルーは、その時は、リンゴの屋敷にいました。それは確認済みです。なので、ベルさんではありません」

「僕が一度離脱して、その狙撃したエンプティにダイヴした可能性は?」

「あり得ません。私は、ベルさんがベイビィ・ブルーにダイヴしている時、この部屋にいたからです。一度離脱すれば、生身の体が動きますので、すぐにわかります」

「……。そう。最初から、犯人と疑われているわけじゃなかったんだ」

「でも、暗殺のルールやベイビィ・ブルーがいた説明がつきません。どうしてですか?」

 僕は紅茶を飲んだ。もう、カップの中は空だった。最後の一口は、とびっきり甘い味がした。

「今回のマツリノ氏の事件では、僕に大きなアドバンテージがあった。前回のシンジュの事件に関わっていたからだ。誰よりも早くシンジュの異変に気付けたから、次の手に備える時間は沢山あった。当然、今回の件も予測がついた。なので、マツリノ氏の暗殺依頼も常に探していた。思ったよりも早く敵が動いたので、暗殺者として、そこに侵入した。それと同時にマツリノ氏の護衛にも動いていたけど、これは失敗に終わった。最大の誤算は、マツリノ氏がもう、諦めていた」

 実は、暗殺の依頼を受ける時に、四体のエンプティがいた。その中に、ポパイがいたのだ。彼の動きをそこで見たから、ポパイと会った時に、どこかで見た事があると思った。あの時の暗殺者だと思い出したから、ポパイがスパイだとわかる証拠になった。

「なんのために、ベイビィ・ブルーを待機させたのですか?」ネオンは、願う様に見つめてくる。

「敵の襲撃に備えただけだよ。今回の仕事は、僕にとってそれだけ大きな山だった。でも、結局無駄に終わった」

「暗殺が目的じゃなかったんですね?」

「うん」

「嘘じゃないと誓えますか?」

「嘘じゃないよ」

 ネオンは、一瞬だけ安堵の表情を見せた。

「あんな蜘蛛みたいな敵が来るのを、予想していたんですか?」

「いや、念の為にだよ。もしも、二人を安全な所に護送するなら、それ位の戦力が必要になるからね」

「護衛の依頼が都合良く来たのも、ベルさんの仕業ですか?」

「いや、それは、本当に運が良かった。日頃から、名前を売っているお陰かもね」

「そういえば、ベルさんは、キンギョさんが、セクシュアルな対象として、リンゴを養子に迎えた様に言っていましたが、あれはなんですか?」ネオン眉を顰めた。

「そんなことは一言も言っていないよ。ただ、ネオンが勝手に勘違いしただけだ」

「いえ、確かに言っていたはずです」

「僕はスキャンダルがあるとは言ったけど、そんな意味で言ったわけではない。それは、ネオンがそう解釈しただけだ」

「いえ、それはズルいです。そうなるように、誘導しましたよね。それに実際、キンギョさんには、女性関係でスキャンダルがありました」

「それも、どうだろうね。何十人もの女性が、マツリノ氏の屋敷に行ったのは確かだろうけど、同じくらい男性もいるはずだよ。そもそも、その人たちに、マツリノ氏は、出資をしていたわけだから、密室で話しくらいあるだろう。そして、出資先としては、やはり若い人が多くなる。才能があって、アイディアもあるけど、お金が足りないという人が多いからね。その状況を、閲覧数を稼ぐために、面白可笑しく書く記事があっても不思議じゃない。でも、事実として、マツリノ氏は、その投資で儲けている」

「それじゃ、女性関係のスキャンダルは無かったという事ですか?」

「さぁ、密室でなにが行われているかなんて、誰にもわらない。人間はわからない時に、自分の信じたいものや、思い込みたいものを想像する。自分の見たいものだけを見る。知りたい情報だけを集める。そういう主観が、事実から大きく逸れる原因となる。今回のネオンがそうだったように」

「そう誘導したんですよね?」ネオンは頬を膨らませた。

「まぁ、確かに、それも少しある」

「なんでそんなことをしたんですか?」

「今回は結末が決まっていた。聖人みたいな人が死ぬなんて許せない、と駄々をこねられても困るから、ショックを和らげる為に、悪い印象を与えたんだ。悪気があった訳じゃない」

 ネオンは、僕を睨んでいる。

「うん。ごめん。悪気は無いけど、悪いとは思っている」堪えるのも面倒なので、正直に打ち明けた。

「どうせ謝るなら、初めから謝って下さい」

 少し反応に困ったので、微笑んでおいた。

「キンギョさんは、どうして、シェルタにいなかったのですか?それに、暗殺を知っていたのに、警察や安全なところに避難もしませんでした」ネオンはケーキを平らげてから言った。

「マツリノ氏の顔は、年齢の割に若いと思わなかった?」僕はきいた。

「はい。整形してましたよね」

「そう。整形していた。でも、それは、老化を遅らせる為?本来、整形は顔を変える為に行われる。マツリノ氏は、顔をネットに公開しているから、体格や骨格がそっくりな人が、その顔に変えれば、彼だと思うだろう。でも、付き合いの長い人や肉親なら、気付くかもしれない。彼の場合は、この十数年間、自分の敷地内に籠っていた。人ともあまり会わずにね。娘であるリンゴと会うのを避けたり、すぐに部屋から追い出したのは、見抜かれる可能性が一番高いからだ。彼は、今回の件を未然に防ぐ事が出来ても、しばらくは、命を狙われる可能性がある。だったら、予め死んでおけばいい。わざわざ、暗殺されやすい窓ガラスの前に座って、殺してください、と言っている様なものだ。会話の辻褄が合う様に、カイと名乗るエンプティに本人はダイヴして、隣の部屋から聴き耳を立てて、部屋の中の会話に指示を出す。もう世間では、マツリノ・キンギョは死んだから、表舞台に出なければ、命を狙われる事はない。事前に準備すれば、今後もお金には不自由する事は無い生活が送れるだろう」

「えっ?ちょっと待って下さい」ネオンは目を見開いた。「それってホントですか?」

「さぁ、どうだろ?少し前に思いついた。そう考える事も出来るなって。人間は、都合のいいように解釈するから。それに、そう考えたら、罪悪感が薄れるしね。信じたいなら、そう信じてもいい。どちらでも、僕らには直接の影響は無い。でも、僕は、死んだと思っている。シェルタに逃げなかった理由は、わからないけど」


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