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二人のトワイライト  作者: ニシロ ハチ
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第四章 1



 キンギョさんは、あっけなく死んだそうだ。

 死因は他殺。銃での狙撃だった。銃弾は頭を貫通して即死だったと、警察は発表した。なので、蘇生も間に合わなかった。最も、本人がそれを望んでいなかったので、間に合っていても、治療は行われなかっただろう。

 ニュースは、世界中に知れ渡った。それほどの人物だ。彼の業績を綴った記事が死んだ後に、幾つも書かれたが、私の知らない情報はなかった。その記事はAIが書いているし、そのタイプのAIは、ネット上に存在しない情報を知りえない。嘘の記事も書かない。ただ、大衆の注目を集めるのが上手だ。時期や書き方が見事で、アクセスは伸びているだろう。

 あの事件から、つまり、キンギョさんが死んでから二週間が過ぎた。

 私は、独自に捜査をして、大体の事を調べ上げた。殆ど違法の捜査方法なのだが、それが私の専門だ。もっとも、私の持っているコネ、つまり、私の先生のジンノさんが、大部分を調べたのだ。

 でも、ラムネさんやベルさんに気付かれない様に、ジンノさんとコミュニケーションをとるのは、骨が折れる。痺れるような緊張感がある。スリリングで刺激的な二週間の結果、今回の件の大筋が見えてきた。

 でも、まだ、わからない事があるので、これからベルさんと会う約束をしている。夕食の度に会っているのだが、その時はラムネさんもいるので、話すのを控えている。ラムネさんに睨まれると、どうも言葉が詰まってしまう。

 仕事の報酬は既に振り込まれたので、大きな買い物をした。ミニクーパだ。ガソリンで実際に走る事も出来るらしい。でも、形が好みだから買ったのだ。もう既に、私の部屋で組み立てられている。ベルさんの部屋と私の部屋の間のドアに入らなかったので、分解した状態で運び入れて、私の部屋の中で組み立てたのだ。その作業を行ったのはエンプティだ。スピーディで、あっと言う間に出来上がった。かなり高額だったが、後悔はない。特に屋根に乗った時のサスペンションがいい。部屋の床も適度に沈んでくれたら楽しいのに、と思ったほどだ。ルーフへのアクセスをよくする為に、簡易の階段も注文した。

 ボードも検討したが、室内で使うわけにもいかないし、ダイヴした時は、レンタルをすればいい。広い庭があって、初めて欲しくなるものだろう。

 リンゴのその後の行方は、わからない。遺産相続はしたのだが、あの広大な土地と屋敷からは、引っ越すそうだ。でも、土地や屋敷は、まだリンゴが所有している。ケンゾウさんやカイさんたちは、リンゴにはついて行かなかった。ただ、新しい雇用先が、それぞれに用意されている、とのことだ。キンギョさんは、自分の死後の事も考えていたわけだ。

 今回の事件で、ベルさんが言っていた様に、ムーンウォーク計画は大きく変わった。そして、日本のエンプティメーカはこの事件を経て絶望的となった。今は、各メーカが互いに牽制しつつも、根回しやアピールを繰り返している。今のところ、中国とドイツが優勢だろうとの予測がある。シェア率からすれば、妥当なところだろう。

 でも、その為に、マツリノ・キンギョは殺されたのだ。

 バカバカしい。

 わからない事は、それ以上にある。

 あの蜘蛛の様なエンプティが、リンゴを襲ったことだ。ナツさんが殺されたのも、ルール違反のはずだ。結局、死んだのは、ナツさんとキンギョさんの二人だけだった。ナツさんが死んだニュースは流れていない。なにかそういう規制でも敷いたのだろうか。

 蜘蛛のエンプティと私たちの攻防を映像で見たが、ナツさんが殺されたシーンだけは、見ていない。見たくも無いからだ。そうじゃなくても、私はあの時、見てしまった。もう懲り懲りだ。

そもそも、なぜ、ベルさんは、暗殺のルールを知っていたのだろうか?それに、キンギョさんも殺されるのがわかっていたなら、他の方法が沢山あったはずだ。

 でも、わからないことなんて、幾らでもある。ベイビィ・ブルーが現れた事や、その時のベルさんの行動。ベイビィ・ブルーがなぜ、リンゴを守ったのか?

 そもそも、私はベルさんやラムネさんの事すら、殆ど知らない。

 ベルさんの服やパンツの袖や裾から延びる腕や足は、間違いなく女性の体で、指や爪に至るまで全てがそうだ。今の時代、顔を変える事や、年齢を誤魔化すことは容易に出来る。胸だってどうにでもなる。でも、骨格や指を見れば、その違いが、すぐにわかる。体中の骨を削るわけにはいかないし、整形は、少しだけ歪になるのだ。そういう人たちを沢山見てきたが、二人とも整形をしたとは思えない。その割には、綺麗な造形だ。ベルさんは、可愛い顔だし、ラムネさんは、とびっきり綺麗な顔だ。

 ベルさんの見た目は女性、服装はどっちとも判断が付かない。

 今時、性別が複雑なのは、珍しくもないが、それでも、自分がどっちなのかを、ある程度決めている人が殆どだ。日によって変える人もいる。それでも、今、自分がどちらかなのかを決めている。あんな曖昧なままで、生きていけるのは、複雑である証拠だ。

 それに、もしかしたら、ベルさんは、ベイビィ・ブルーではないかと疑っている。あの時、ベルさんはダイヴしていた。それも、いつも使っている専用端末ではない機種で。その先はどこだろう。

 もし、そうだとすれば、ベルさんの年齢はすごく年上ということになる。見た目は二十代前半だが、それ位は変えられない事はない。手術痕がないのが、不思議だけど。でも、年齢の見分け方を、私は知っている。これは、簡単に調査が出来るし、その割に普及していない。対策も不可能だ。

 ベルさんと会うまでもう少し。少しだけわくわくしてきた。

 携帯端末を取り出して、セットをしておいた。

 画面を消した時に、真っ黒なモニタに反射された私の顔は、あまり良くない笑みを浮かべていた。

 ベルさんがベイビィ・ブルーであって欲しいのか?

 でも、そうなら、少し複雑だ。

 そう。

 誰だって複雑だ。

 ベルさんも、私も、リンゴも。



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