第三章 5
空が爆音で揺れた様に感じた。
全員が無意識に空を見上げた。神様がそこにいるからではない。
「早くシェルタに」ベルさんが叫んで、リンゴに近づく。
ナツさんは、それを止めなかった。
でも、それは、ずっと早く、空から降りてきた。
飛行機が見えたのは一瞬で、あっという間に、爆音と共に遠ざかった。風が吹いて、樹も草も髪も服も揺れた。景色の全てが、歪んだ様に見えた。私は、その飛行機から降りて来るそれを、ずっと見上げていた。
蛸?
そんな連想を一瞬した。でも、プリンの様に柔らかに着地したその姿は、蜘蛛にも見えた。
長い脚が八本、もっとあるかもしれない。その全てが、意思を持つ生き物の様にうねっている。顔はなく、それが本来ある位置には、ピンクの球体がある。球体から、八本の脚が生えている。どこを見ているかもわからないそれと、目が合ったような気がした。睨まれている様な気がした。
明らかに、兵器とわかるデザインだ。
人間の友達じゃない。
それが、私たち四人とリンゴの屋敷の間に降り立った。
高さは三メートル弱。でも、長い手足のその一本一本がそれ位ある。
怖い。
「リンゴを連れて、あっちに走って」ベルさんが指をさした。その方向は、北側だ。アレがいるから、屋敷には戻れない。そう判断したのだろう。
私は立ち尽くしているリンゴの手を引いて、走り出した。
「ネオン。絶対にリンゴを守って」ベルさんの声が、背後から届いた。
銃声がした。
走りながら振り返ると、ナツさんが、両手に持った機関銃を、相手に向かって、乱射していた。確実に相手に当たっているが、ダメージを受けている様子はない。複数の脚で球体を守っている。
敵は、一瞬だけ溜めた。
流れる水が壁に当たって行き場を無くし、折り返す寸前みたいに。
揺れる寒天みたいに。
そして、敵がナツさんに、蜘蛛の様に素早く接近して、その長い脚の一本で、ナツさんの体を真っ二つにしたのを見た。
私は短い悲鳴を上げた。
ナツさんの体は、腰の所で二つに切断されて、上空を舞っている。
殺した?
人間をあんな簡単に殺した。
私は、リンゴの手を強く引いて、道なき道の山の中に入った。もう敵は、樹に遮られて見えない。でも、私は、走り続けた。
少しでも、アレより遠くに。
でも、どこに?
それでも、私たちは、山を駆け抜けて走った。




