表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二人のトワイライト  作者: ニシロ ハチ
22/37

第三章 2


 リンゴの部屋の乱れようが、妙に落ち着く。僕の部屋も同じように散らかしてもいいくらいだ。でも、物が少ないから、全てを床に広げても、床面積の十分の一も満たさないだろう。それに、僕の部屋は、ラムネやネオンも利用するから、少しは綺麗にしておいた方がいいと、たまに、ふっと思う事もあるかもしれない。仕事中に街中で困っている顔の人を見かけて、わざわざ、声を掛けて助けるくらいの割合だ。勿論、そんな制限がなくても、手元に置きたい物など、殆どない。

 でも、ヴァーチャルの僕の部屋は、リンゴの部屋よりも乱れている。気に入った商品を買って、部屋に飾っているのだ。壁や床、天井まで、好きな絵で埋め尽くされているし、キャビネットにはコレクションが、グラス一杯の氷みたいにガラスケースの中に並んでいる。それでも、部屋に飾られているのは、ほんの一部で、入りきらない分は、倉庫にしまってある。ヴァーチャルのいいところは、大きさを自由に変えられるし、なにより、重くない。重力に従う必要もないし、三百六十度どの角度からでも眺める事が出来る。リアルの街も小さくして部屋の中に入っている。昔、流行った観光という娯楽が、どれだけ不自由だったか、思い知らされる。リアルで実際に目で見たって、なんの意味があるだろう。もう、リアルに拘る人は、少数となった。そういう人間は、淘汰されたからだ。

 でも、リアルでも、リンゴの様な趣味は悪くはない。あれは、研究や実験に近いものだろう。だから、とても純粋で綺麗だ。

「ボードが友達ってなんでしょうか?」ネオンが直接話しかけてきた。僕の隣に立っていて、リンゴの部屋の中には、リンゴとナツさんを含めた四人がいる。

「ボードがわからない?それとも、友達がわからない?」僕も直接答えた。ネオンは、吹き出す様に笑った。笑い声を殺したまま僕を睨んでいる。

「どうして、ボードを友達なんて表現したんでしょうか?」ネオンは言い直した。

「自分で調整したから、愛着が湧いたんじゃない?」

「友達って言いますか?でも?」

「友達の定義にもよると思う。例えば、自分の思い通りになる人は、友達じゃない。ケンゾウさんが友達じゃないのは、主従関係にあるからだ。ボードは、重心をいじったとしても、思い通りの動きをしてくれるわけじゃない。何度も調整して、何度も修正して、時には、自分の体の動かし方を変える必要もあったかもしれない。その関係性は、友達と呼べなくはない。それに、ボードは一人で動く事も出来るから、それが生きているみたいに思えるのかもね」

「それで、友達ですか?」

「僕もイオが友達みたいだと思うよ。イオは体も表情も無いけど、生きているみたいに見えるし」

「でも、それは会話が出来るじゃないですか」

「人でも喋る事が出来ない人もいる。会話が意志の疎通の全てじゃない。言葉は話さなくても、友情や愛情はある。リンゴのボードへの愛情は、普通の人が友達に向ける以上の熱量だと思う。そうじゃなきゃ、あんな調整は出来ないし、あの動きは不可能だ」

「………そうですね。その通りです。私が浅はかでした。後悔しています」

 ネオンを見ると、そんな風な表情を浮かべていた。素直な人格だ。彼女の魅力の一つだろう。

 リンゴのボードの調整は、簡単な事では無いだろう。速度を上げる為にパーツを変えると、ボードの全体の形や重心が変わってしまう。そうなれば、姿勢制御やループやロールの調整も変わってくるだろう。一つを変えれば、全てが変わってしまう。それを確かめる為には、エンプティに乗って、何十時間という試験飛行が必要だ。そして、ようやく自分が乗って、更に、調整を加えるのだと思う。計算通りに進む方が、少ないのではないだろうか。ゲームを創るのだって、思い通りには動かない。リアルだと、部品の劣化やパーツ交換の為に別の個所をいじる必要だってある。正しく測定するのにも、苦労するだろう。

 それを、繰り返してきた。

 ずっと、一人で。

 だから、あの信頼関係が生まれたのだろう。

 リンゴは、背もたれに深く体重を預けて、深い溜息をした。両手を上に上げて伸びもしている。なにかの作業が終わったのだろうか。

「思ったんだけど」リンゴは、ヘッドフォンを外し、椅子を回転させて、こっちを見た。「エンプティドールって、もっと大きいとか小さい方が、戦いに有利だったりするんじゃないの?」

「あっ。それは、私たちも話しました」ネオンが言った。「昨日、普通の敵しか攻めて来なかったからです」

「そうそう、もっと、悪って感じのやつが来てもいいのに」リンゴが言った。

「なんで、悪人が悪人の姿をしてるの?」僕は言った。「普通、悪人は、一般人に紛れるんだ。そうじゃないと、悪事を働く前に、悪目立ちしてしまうからね」

「大きいエンプティはどう?」リンゴは僕を見た。

「どの位の大きさを想像しているのかわからないけど、大きくなるにつれて、重くなるから、動きが遅くなる。急に動いたり、止まったりが、加速度的に不利になるからね。バッテリィも普通のサイズじゃ足りないから、大きな物が必要になる。結果、のろまな巨人が出来上がるだけだよ」僕は答えた。

「でも、悪って感じがするけど」リンゴが言った。

「そんなの感じたって、誰も得をしない」

「面白いとは思うけど」

「なにが?」

「例えば、十メートル位のエンプティの肩に乗って、遠くを眺めたら、楽しいと思う」

「屋敷の屋根から見ればいい」

「移動式なのが、魅力なのに」

「言っている本人が、その矛盾に気づいている」

「あっ、バレた?」リンゴは笑った。

「なにがですか?」ネオンはきいた。

「十メートルのエンプティを想像してみて。誰がメンテナンスをするの?どこに保管するの?足も大きくなるから、普通の道は歩けない。地面にめり込むかもしれないし。それなら、ボードで十分だよ。重さで直立出来るかも怪しいしね」僕は答えた。

「ああ、そうですね」ネオンは頷いた。

「じゃ、小さいのは?」リンゴがきいた。

「一メートル位のエンプティは、既に存在している。それ以下になると、手足が短くて、性能が大幅に落ちる。それに、小型化は、既存のパーツが使えなくなる限界が来る。限界以下のサイズだと、細かい部品も相対的に小さくなるから、外部から強い衝撃を受けると、壊れてしまう可能性がある。戦力にはならないね」僕は答える。

「隠密行動には、いいんじゃない?」

「エンプティである必要性がない。昆虫型のロボットは、もう既に製品化されているし、その場合は、操作方法も端末で行った方が、やりやすい。そうすれば、空も飛べるし、形も、自由に変えられる。ダイヴする必要性が無い」

「ふーん。それじゃ、エンプティドールってやっぱり、おままごとみたいな存在になってない?」

「いや、そうでもない。普通の人間の姿で十分凄いんだ。現に、人類は全ての動物を支配している。ゴリラや熊にも勝てるんだ。それだけの応用力が、人の形にはある。更に、エンプティはその人間よりも性能が桁違いに良くなっている。それだけでも、十分脅威だよ」

「手を挟みやチェーンソみたいにすれば、悪って感じがするけど」

「拘るね。でも、武器を持てばいいだけだから不要だ」

「ふーん。悪は滅びたってわけだね」

「滅んではいない。普通に見える人の中に紛れているだけだよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ