表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二人のトワイライト  作者: ニシロ ハチ
18/37

第二章 2ー2

 僕にも通知が来て、開いてみると、侵入者が現れたようだ。カメラ映像が共有された。一番南側の道を上っている。こことは、距離が離れている。リンゴは、ヘッドフォンを外した。

 侵入者は、明らかに武装している。ドローンが十機に、武装したロボットが二体いる。こちらの防衛システムが働き、ドローンによる迎撃の準備が行われた。

 ドローンには、銃を装備させているのだろう。操縦者が人間なら、高速移動中のドローンから発射させた銃弾を当てるのは、極めて難しいが、コンピュータの制御下にあるなら、対象によっては、可能だろう。対人兵器としては、十分な火力を有している。

 ドローン対ドローンなら、こちら側が有利だろう。地形を既に把握させているのと、設置しているカメラ映像を使って不意を突けるのが大きい。でも、銃弾があのロボットの装甲に効くとは思えない。火力不足だろう。あのロボットがドローンをまとめているのだろうか。

 扉が開いた。ケンゾウさんが立っている。

「お嬢様、すぐにシェルタに避難して下さい」彼は言った。

「危なくなったら、すぐに向かう」リンゴは答えた。

「シェルタの扉は既に開けております。間に合わなくなる前に、どうか避難を」

「わかった」

 ケンゾウさんは出て行ったが、入れ替わりでナツさんが、部屋の中に入って来た。ケンゾウさんと違い、とても落ち着いている。

 敵の姿はすぐにカメラから外れてしまうので、リンゴは、複数のカメラ映像を同時に映した。部屋の壁や天井に、山が映っているだけの映像が並んだ。彼女の前の端末には、更に細かく分割された映像が並んでいる。

 僕は、それらの映像をスキャンする様に眺めた。カメラの位置と場所を把握する為だ。侵入者がカメラから見えなくなると、すぐ隣の映像に、同じ敵が映り込む。この出力された配置は、ランダムではなく、実際のカメラの位置と関連性があるようだ。

 敵は、西から東へ上っている。昨日把握したマツリノ氏の屋敷は、街から続く三本の道の、下二本の繋がる真ん中辺りになる。だから、敵がこのまま上れば、マツリノ氏の屋敷にも辿り着くだろう。映像では、ドローンとドローンの銃撃戦が始まっている。発砲する瞬間だけ、速度が落ちているが、後は、ずっと高速移動を続けている。マツリノ氏のドローンの数は十分にある。だから、やはり、問題はロボットの対処だろう。

 敵が暗殺のルールを守っているのなら、高火力の武器を持っていないので、武装したエンプティがいれば、なんとかなるだろう。

 その時、部屋の壁に映している映像に動きがあった。三本の内、一番北側の道を、東に上っているものがあった。かなり高速で移動している。ドローンではない。

「あっちの映像。侵入者がいる」僕は指さした。全員がその映像を見た。

 新しい侵入者はエンプティのようだ。かなりの速度で、上っている。

 問題なのは敵の位置だ。

「システムは既に新しい侵入者を察知しています。迎撃システムが作動するでしょう」ナツさんが言った。彼女は、携帯端末を手に持っている。

 僕の心配事は、その事ではない。あの辺りで戦闘が長引くのが問題なのだ。

「敵の移動速度なら、迎撃システムが作動する頃には、この屋敷の近くまで攻めてくるかもしれない。それにあの敵は、マツリノ氏の位置を把握出来ているわけではないみたいだ。だから、手あたり次第に屋敷を攻撃するかもしれない。その場合、この屋敷が標的になる可能性もある。敵の迎撃に手こずれば、更にその危険度は高くなる。僕が排除に向かえば、そのリスクを消す事が出来るけど、僕の任務には、敵の位置が遠すぎる。その為、責任者の許可が必要だ。どうする?」僕は、早口でリンゴに言った。

「えっと」リンゴは頭が回っていないようだ。動揺しているのだろうか。

「安全な方か、神頼みな方か、どっちがいい?」僕はすぐにきいた。

「安全な方だけど」リンゴは答える。

「わかった。新しい侵入者が現れた時は、すぐに知らせて。山頂を超えてくる様なら、一目散にシェルタの中に入って、絶対に鍵を掛けること。ネオンは、最新の情報を僕に送って、もしもの時は、階段を守るように」

「えっ?ホントに行っちゃうんですか?」ネオンは驚いている。リンゴは、状況を飲み込めていないようだ。ナツさんは、僕を疑う様にジッと見ていた。その視線が気になったが、僕は部屋を出て、靴を履いて外に飛び出した。

 敵の位置は把握している。ネオンと視覚を共有しているので、敵の現在地が常にわかる。イオがいれば、任せていられるけど、仕方がない。

 もし、敵が屋敷の中に攻めて来ても、シェルタの中に入ってしまえば、問題ない。シェルタの扉や壁を破壊するだけの火力は、エンプティにはないからだ。それに、もし、シェルタを壊すだけの兵器を使ったなら、それは暗殺成功時の報酬を超える出費となる。相手がプロであるからこそ、そんなヘマはしないだろう。それに、ターゲットは、あの屋敷にいないのだ。だから、ネオンを残しておけば、僕はある程度自由に動ける。それは、最初から考えていた。

 山頂を超え、更に進み、突き当りの道を本来なら右に曲がれば、敵と遭遇するのだが、ショートカットの為に、右斜め方向の森の中へ進んだ。足場は悪く、樹々が邪魔するが、走るのには問題ない。

多少の微調整を行い、敵を待ち伏せるポイントに到着した。敵の位置も、しっかりとカメラで捉えている。二人で間違いない。後、二十秒後に現れる。

 大きく深呼吸をした。心臓も肺もないエンプティには、必要ない動作だ。瞼を閉じた。これで、完全な闇となる。警備システムのカメラ映像だけ見る事も出来るが、僕の設定では、闇だ。

 人が瞼を閉じた時の様に、変な模様や暖色系の色も現れない。

 綺麗な闇。

 音も消える。

 自分の姿を想像する。ひらひらのスカートを履いた少女だ。

 目を開けると、少しだけ笑みが零れた。

 これはいつもコントロール出来ない。

 敵との接触まで、あと十秒。

 少しだけ遊びたい欲求が沸いた。でも、それは次の機会に。

 今回だけは、失敗出来ない。

 右手に持っている石を見た。来る途中に拾っておいたのだ。カボチャ程の大きさだが、くぼみがあって、小さな掌でも掴みやすい。硬さも申し分ない。このままいくと、あと五秒後に、十メートル前方の道を通り過ぎる。車道の周りは樹林帯で、上からのカメラが僕を含めた周辺を映している。

 後二秒。目視で敵を確認した。一人は迷彩柄の軍服を着ていた。もう一人は、褐色の肌に白い髪、黒い服を着ている。

 野球の投手の様に、振りかぶって、石を投げた。石の軌道を追いながら、すぐに走りだした。

 見事命中。

 本当は、顔に当てたかったが、確実性をとって胴体を狙ったのだ。石が当たった迷彩柄の方は、よろけて、当たった部分を確認した後、こっちを見た。

 目があった瞬間には、僕の右脚は、敵の顔を振りぬく寸前だった。

 こちらも、当然命中。

 僕の体の性能が悪いので、首を切断するのは失敗。吹き飛ぶ前に相手の両足首を、両手で握って振り回した。そして、近くにあった岩に相手の顔を当てて、排除した。

 すぐに、もう一人を見た。

 敵も、止まって、こっちを見ている。

 残念。

 全速力で逃げていれば、助かったのに。可哀そうに。

 どうやら、敵は、僕を排除するようだ。体を低くして、構えている。一人目は、不意打ちなので上手くいったが、臨戦対戦に入られれば、無傷では難しい。

 左手はまだ、動かない敵の左足首を握っている。それを、山なりになるように、敵に向かって投げた。

敵は、それを避ける為に、こっちに注意を向けたまま、三歩下がった。上に気を取られるような素人ではないようだ。身のこなしも綺麗だ。投げだと同時に、僕も走り出して、距離を詰めた。自分で投げたエンプティの落下地点に僕は走りこんで、落ちてきたエンプティの足首を、また掴んだ。

 そのまま、一回転振り回して、相手に向かって投げた。意表を突かれたようで、相手は避けたが、体勢が僅かに崩れた。

 最大出力で接近して、足元を払う様に蹴った。すぐに、相手の左手首と首を掴み、引きこみながら、相手を地面に抑え込んだ。うつ伏せに倒れた相手の上に乗り、両手を背中側で固定した。

豚の丸焼きをする時に、手足を縛るようにだ。これを生身の人間にやると、肩の部分で、両腕が骨折することになる。相手の肘の関節は曲げずに、真っすぐ伸ばしている。豚の丸焼きと違うのは、それを背中側で固定しているところだ。でも、今は相手に痛みは一切ないはずだ。

 僕は、息を大きく吐いた。

 無傷で捉えることは出来たが、スカートが汚れてしまった。迷彩柄の敵は、グロテスクなので、見る気になれない。

 敵には、大きな損害は与える事が出来た。放っておけば、このエンプティはマツリノ氏以外にも、暗殺に使われたかもしれない。これまでにだって、人を殺してきたのかもしれない。

 でも、エンプティに罪はない。

 罪はないが、壊れるのは、エンプティだ。

 仕方がない。

 今はこれが僕の仕事で、最善策のはずだ。

 もう、失敗は出来ないのだから。

 ………まだ、間に合うだろうか?

 相手が、脚で踏ん張ろうとしているのがわかった。エンプティなら、上に乗られたって、簡単に立ち上がることが出来る。

「動かないで」僕は言った。「今すぐ離脱すれば、これ以上、この体を傷つけない」

 相手は、首を回してこっちを見た。

「あれ?もしかして、ベル様っすか?」相手は、そう言った。

「えっ?」少しだけ驚いた。「もしかして、ブラウン?」

 相手は、イエスとも、ノーとも言わずに、最後に笑って離脱した。

 僕は、動かなくなったエンプティを、ぼんやりと見下ろしていた。

 綺麗な体なのに、傷つけてしまった。

 ブラウン・シュガーは、世界ランク第十一位のエンプティパイロットだ。これまでも、同じ大会に出る事が何度もあった。でも、こんな裏の仕事をしているとは思わなかった。そんなことをしなくても、パイロットの収入だけで、十分裕福な生活が出来るはずだ。

 さっきの動きだって、見事な物だった。あっさりと勝てたのは、不意を突いたからだ。僕がわざとそういう動きをした。エンプティを投げて、注意を逸らしている内に、距離を詰めてから、攻撃が来ると思ったのだろう。そこに、カウンタを合わせていたはずだが、そのまま、エンプティを掴んで投げるというのが、想定外だったはず。その対応に、遅れたので、すぐに捕まったのだ。次またやれば、こっちが無傷で済むとは思えない。それ位には、優秀なパイロットだ。思い出すと、あの動きは、ブラウン・シュガーの動きだった。最初の戦闘に反応が遅れたのは、反撃が来ると予想出来ていなかったのだろうか?

 ドローンの音が聴こえた。マツリノ氏側のドローンの様で、銃口を下に向けていた。

近くまで来て、捕獲用のロープを持ってくると、音声で伝達してくれた。ドローンのカメラ映像を見ている本部から、指示を出しているのだろう。ちゃんと、僕の行動も把握しているようで、ここに来たドローンは一機だけだった。つまり、この迎撃用のドローンは、途中で、連絡用に変わったわけだ。その他の機体は、引き返したのだろう。

「そっちに異常はない?」僕は、ネオンにきいた。

「はい。問題ありません。凄いですね。鮮やかです」

「引き続き、警戒しておいて」

 待っている間に、あっちの方の戦闘を見ていた。所定の場所に誘い込むような動きを、マツリノ氏のドローンはしていた。装甲を打ち抜くほどの強力な火力を装備したロボットの場所まで、誘い込む作戦のようだ。誘い込む理由は、そのロボットの移動速度が関係しているのだろう。

 そして、簡単に敵のロボットを破壊した。一発で見事に命中したのは感心した。後は、時間の問題だろう。他に侵入者は確認出来ていないようだ。

 ロープを持ってきたドローンが来たので、それで敵を縛りあげた。これで、このエンプティにダイヴしても、なにも出来ないだろう。

 こういうエンプティには、プロテクトが掛けられていて、パスワードを知っている人物以外に、ダイヴすることが出来ない。そして、そのパスワードを知っている人物なら、いつでもダイヴ可能なので、観賞用にするわけにもいかない。なので、こういう場合は、事が終わってから、持ち主に売りつけるのが一番いい。持ち主も、新品を購入するよりも、安く済むし、こっち側も、パーツをばら売りするよりも儲かる。なので、その方法がローカルルールとして存在する。勿論、警察には、秘密で行わなければならない。

 その辺を歩いているエンプティに、こういった事をすれば、訴えられるので、普通の人は知らない。双方が、公にしたくない時に、行われる方法だ。

 事が終わってからとは、今回の場合、マツリノ氏の暗殺依頼が取り消されるか、暗殺が完了するかのどちらかだ。このままでは、恐らく後者になるだろう。

 ただ、マツリノ氏側が、このエンプティをどう対処するのかは知らない。メーカに送り付ける方法もある。初期化すれば、再利用も可能だからだ。警察に任せるのかもしれない。

 僕は数秒だけ目を瞑った。

 音も遮断している。

 目を開ける。

 敵を排除するのは、僅かに抵抗がある。

 でも、これはそういう仕事だから……。

 だから、仕方がない。

 空を見上げた。誰かが敷き詰めた様に、葉が空を隠していた。まるで、人間がやったみたいに正確だ。樹には、蔦が巻き付いている。朽ちて折れた樹からは、キノコと苔が生えていた。綺麗な自然だって、なにかを奪って成長している。

 良く出来ている。

 生きる為には仕方がない。

 大きく息を吐いた。

 溜息だろうか?

 僕にもわからない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ