高嶺の花
以前から片想いをしていた女性と交際することになった。勇気を出して想いを伝えたら、彼女もずっと同じ気持ちだったと応えてくれたのだ。会社ではマドンナ的な存在の彼女と、本当に付き合えるだなんて思ってもいなかった。男は感極まって彼女をきつく抱きしめた。
初めてのデートで訪れたのは遊園地だった。たくさんのアトラクションを楽しんで、最後に観覧車に乗った。眼下に広がる景色を楽しみながらおしゃべりをしている最中、不意に体を寄せてきた彼女は何も言わずに瞳を閉じた。その意図を汲んだ男は彼女の唇に自分の唇を重ねた。初めてのキスだった。
初めて彼女の作った手料理を食べたのは、付き合いはじめて三ヶ月が経った頃だ。お互いスケジュールが合わなかったため、その日初めて彼女の自宅にお邪魔した。キッチンに二人で並び、料理をする彼女を手伝うのは楽しかった。そしてできあがった彼女の料理は、これまで食べてきたどんなものよりもおいしかった。
付き合いはじめて二年目の記念日に、男はプロポーズをした。泣きながら頷く彼女の左手の薬指に指輪をはめて、男は一生大事にすると誓いを立てた。
二人が一緒に暮らしはじめたのは、籍を入れて一年後のことだった。愛の巣に選んだのは、3LDKのマンションだ。彼女は新居をいたく気に入って、さっそく自分好みにインテリアを飾りだした。男ははしゃぐ彼女を見ているだけで幸せだった。いずれ子どもができたら、一戸建てを建てるつもりでいる。
共に暮らすようになるまで、男と彼女は清い関係を保っていた。しかし、結婚して共に暮らすようになったその日、ついに二人は体を重ねた。ベッドの上で彼女を愛しながら、男の心は深く満ち足りていた。激しく愛し合ったのち、二人は並んで眠りついた。
次の日、目が覚めた男はベッドの上に一人だった。周囲を見回す。物に溢れた雑然としたワンルームが広がっている。実に見慣れた光景だった。男はベッドの上で伸びをした。またいつもの夢がはじまったらしい。欠伸をこぼす口を左手で抑える。薬指に指輪はない。男はさっさと夢が覚めないだろうかと思った。早く彼女に会いたい。
結婚式すっとばしちゃった!