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天道虫

 昨日の大雨で桜が散った。街道沿いに並んでいた桜の木は、そろって見事な葉桜になってしまっている。これはこれで乙なものだけど、そこはかとないわびしさを感じた。


 どことなく味気なくなった散歩道。足下を見ながら歩いていると、草むらの中にポツンと光る赤い点を見つけた。テントウ虫だ。童心に返った私はしゃがみこみ、テントウ虫を指先でつまんで手のひらに乗せる。温かな陽射しを照り返し、真っ赤な体がピカピカ輝いている。

 ジッと見つめていると、テントウ虫はすぐさま動き始めた。どうやら目的地は指の先みたい。羽を広げて、空を飛ぶためだ。私の指先が、テントウ虫の発射場になるってことだ。なんだかそれって、すごいことのように思えてくる。そして同時に、とても愉快な気持ちにもなってしまう。

 まぁるくて、小さくて、かわいいテントウ虫。ヨジヨジ移動する様子がとてもあいらしくって、ついイジワルをしたくなった。


 テントウ虫が指先にたどりつく寸前、もう片方の手のひらを指先に持っていく。丁度壁をつくるみたいに。するとテントウ虫は気づかずに──いいや、本当は気づいていて──もう一方の手へ渡る。そしてまた指先を目指して歩きはじめる。これってつまり、飛び立つ前の助走だ。けれど私はイジワルだから、さっきと同じ無体をテントウ虫にはたらいちゃうの。もちろんそんなことでテントウ虫はあきらめないけど、私だって同じだ。

 助走とイジワルを、何度も何度も、繰り返して繰り返して……ようやく私があきた頃にはきっと、かわいそうなテントウ虫は、疲れきっているんだろうなぁ。そんなことを想像すると、うっすらと笑みが浮かんでくる。


 あぁ、おかしい。

 こんなことするために、散歩に出たんじゃなかったのに。


 晩春の太陽は相変わらず、テントウ虫をピカピカと輝かせている。私はどこか遠くを見るような気持ちで、それを眺めている。忙しなく手だけを動かしながら、ただ見つめている。

 不毛ないたちごっこを繰り返す私たちの頭上には、空をおおうように桜の枝が伸びている。枝の先ではやわらかな新芽が、そよ風にゆられているんだろう。私たちをすました顔で見下ろしながら。あの子たちったら、なんてかわいいのかしら──なんて、思ってるわけないわね。

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