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向こう側

トンカチで鏡をぶん殴った……ら、スカッと空打った。鏡面を貫通して、向こう側の空気を殴ったトンカチを呆然と見つめる。おかしくない? いや、おかしい。こちら側をそっくりそのまま映しとった鏡の中に、トンカチを握った自分の手が突き出している。ゾッとした。

脊髄反射で腕を引き戻すと、にゅっと鏡から戻ってくるトンカチ。鏡面には波紋のような円がいくつも描き出される。けれどすぐにそれも消えて、何事もなかったかのように鏡は元に戻った。

恐る恐る覗いてみると、大嫌いな奴が強張った顔で現れる。どこをどう見てもおかしなところは見当たらない、ごく普通の鏡だ。

震える指で鏡面に触れる。暖簾を腕で押すように、なんの抵抗もなく、指先が埋まった。


「っ……!」


声にならない悲鳴がこぼれる。

身を引いて指先を観察してみても、特におかしなところはない。鏡に映る奴の顔は蒼白になっていた。


―ピンポーン


不意に呼び鈴が鳴る。弾かれたように振り返ると、ワンルームの短い廊下の先、硬く閉じた扉の投函口からペラリと紙が侵入してきた。こんなタイミングで……いや、こんなときだからこそ、おもむろに立ち上がり、及び腰でそろりとそちらへ向かう。

玄関に落ちた紙を拾い上げると、見慣れた筆跡でこう書かれていた。


「あなたはすぐに壊すから、割れない鏡に変えておいたよ ―向こう側の私より」

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