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争いからはなにも生まれない

先週俺の血を吸った蚊からハガキが届いた。水の中を元気に泳ぐボウフラの写真の下に「おかげさまで、元気な男の子が産まれました!」という一文が添えられている。彼女いない歴=年齢の俺に対する当てつけかと一瞬思ったが、頭を振って、そんなネガティブな思考はすぐさま脳内から追いやった。そうだよ。ただ純粋に、俺への感謝を伝えたかっただけに違いない。

思い直した俺は、子どもの健やかな成長と家族の健康を祈る旨を綴った手紙をしたため、最寄りの郵便ポストへ投函しに出かけた。


帰宅後、母ちゃんに指示された通りに庭の草むしりをしていた俺は、大量の蚊にたかられていた。羽音は苛つくし、刺されたところはかゆいしで、正直うっとうしかったが、今朝来たハガキを思い出し、奴らの好きにさせることにした。俺なんかの血で蚊族が繁栄するならいいじゃないか。献血してるようなもんだろう。それに、俺の記憶が正しければ、動物の血を吸う蚊は全部メスだったはず。そう思うと悪くないんじゃないか?

「まぁ、みんな俺の女にはならないんだけどな!」

しっかりと自虐ネタをきめたところで、勢いづいた俺はラストスパートをかけた。


草むしりを終えた俺は、達成感に浸りながら額ににじんだ汗を拭う。好き勝手伸びまくった草に占拠されていた庭は、見違えるほどきれいになった。これで母ちゃんも文句は言えないだろう。

だが、蚊に刺された場所を掻きつつ満足顔で庭を見回していた俺は、とある物体を発見して顔をしかめた。それは雨風に晒されてぼろぼろになったバケツだった。生まれ変わった庭には相応しくない。

すぐさま中にたまった水をひっくり返し、燃えないゴミの袋に突っ込んだ。不燃ゴミの回収日は来週だ。忘れないようにメモをしておこう。


翌週、きっちりとゴミ出しを終えた帰りのこと。自宅のポストから新聞を取りだした俺は、まだ中に郵便物が入っていることに気付いた。取りだしてみると、それはあの蚊の親子に送った手紙だった。どうやら、宛先の住所を書いてなかったことが問題で家に帰ってきたらしい。そりゃそうだ。

まずったなぁと思うものの、わざわざあの家族の住所を調べ直して、再度投函するのは面倒だ。少々忍びなかったが、手紙は処分することにした。


その日から夏の間、俺が蚊に血を吸われることはただの一度もなかった。うれしいような、さみしいような、複雑な気持ちだ。

秋になった今でも、時々、あの親子のことを思い出す。元気にしているといいなぁ。

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