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ありえない。こんな理不尽なことがゆるされていいの? いや、絶対にゆるせない!

腹の底から怒りが沸いてくる。カップ焼きそばのソースの袋を握りしめた私の拳は、こらえきれない感情を前にフルフルと震えていた。


「ねぇちょっと! ありえなくない!?」


背後を振り返り弟へ訴える。ゲームに熱中している弟は「痛っ!」とか「そっちからくるか!」とか、独り言で忙しそうでまったくこっちを見てくれないけど、まぁ、別にかまわない。私が今求めているのは、怒りを発散するためのサンドバッグ……いや、ゴミ箱? えぇい、なんでもいい! とめどなく沸きあがる怒りを、いますぐにでも誰かと共有しなければ、この不条理に耐えられる気がしないのよ!


「『どこからでも開封できます』って書いてあるのに、どこから開けようとしても切れないんだけど! おかしくない!?」

「はぁ? なんの話?」


鼻息荒く、語気荒く、これ以上はないというほどの感情を込めて訴えると、ようやく弟はこちらを向いた。テレビ画面には「You win!!」の文字がテカテカ輝いている。苦戦していたボスをようやく倒せたみたいね。

心なしか達成感に満ちた爽やかな顔をしていて、それがどうにも気に入らない。これは完全に私の方に問題があるので、筋違いもいいとこだけれど……なんて(我がことながら殊勝にも)頭の中で反省していたのに、


「そんなことよりさ」


けろっとした顔であしらわれてしまうと、怒りを抑えろという方が無理な話よね?


「『そんなこと』ぉ?」


私は激情のままに、烈火のごとく弟を睨んだ。

けれど、


「俺、ずっと不思議に思ってることがあってさ」


完全に無視である。総スルー。シカトこかれた。……言い方はなんでもいい。私の怒りを置いてけぼりにして、弟はのほほんと自分の言いたいことを言うことに注力するつもりだ!


「ゲームしてるときにさ、敵の攻撃喰らって反射で『痛い!』って言っちゃったり、画面に映っていない部分をなんとか視界におさめようと思わず体を動かして画面外を覗こうとしちゃったりするのって、一体なんなんだろうな」

「知るか!」


そんなこと今はどうでもいいわ! 重要なのはソースの袋が開かないことよ! このままじゃふりかけとマヨネーズだけかけた、真っ白な焼きそばを食べなきゃいけなくなるじゃない! そもそもマヨネーズの袋すら開けられるか怪しいってのに!

腹の中の虫は絶えず「そうだそうだ!」と怒りを訴えている。歴史も物語っているじゃない。飢えた人間は怖いのだ。食べ物の怒り、いま、はらさでおくべきか!


「あのねぇ!」


大きく息を吸い飲み、起死回生の口撃を放たんとした私の出鼻を、またしても弟はくじいた。


「姉貴もわりとやってるよな」


そして私もまんまとつられた。


「え、ほんと?」

「ほんとほんと」

「嘘でしょ? 私そんなことしてないって」

「いや、やってるから」

「やってないよ!」

「はぁ? 証拠出せんの?」

「そっちこそ証拠あるの?」

「あるけど?」

「あるの!?」

「ウソに決まってるじゃん。姉貴って本当にアホだよなぁ」


ムキィ……! まんまとペースに乗せられてしまった。我が一生の不覚! そもそも弟に口論で勝てたことは、これまでもなかったということを思い出した。大体今みたいに、のらりくらりとかわされてしまうのよね。

憤慨する私を前に「はっはっは」と笑った弟は、なにを思ったか急に立ちあがって、こちらの方にやってきた。


「で、なんだっけ? ソースの袋が開かないんだっけ?」


実にめんどうくさそうに、ボリボリ頭をかきながら、空いた方の手で袋を奪われる。ちゃんと聞いてたんなら言いなさいよ! と、思わず怒鳴りそうになったけど、ようやくとりあってくれたんだから、ここはグッとこらえなきゃね。


「赤ちゃんかよ」

「私そこまでか弱くないですぅ」

「そうじゃなくてさぁ」


呆れたようにため息を吐いた弟は、どこからかハサミを取りだしてきて、わざわざ私の目の前で袋の端をちょん切った。開封完了である。


「こうすれば一発じゃん」


あんなに苦戦していた相手を、ものの数秒で攻略してしまった弟。封を解かれソースの匂いをはっする袋と、どことなく頼もしく見えるハサミを渡された私は、思わず感嘆の声をあげた。


「おー」


……いや、感心している場合じゃない!

ひと仕事終えたみたいに、ゲームを再開する弟の背中に向かって、拳を握りしめた私は、すかさず声を張りあげた。


「言われなくてもわかってたし! でもありがとう!」


弟はなにも反応を示さずに、また「うわ、その攻撃は読めなかった」とか「また初見殺しかよ……」とかぶつぶつ呟きはじめる。「You dead」の文字が画面に表示され、弟は乾いた笑い声をあげた。どうやら長く険しい戦いが再び幕を開けたみたいね。

また独り言を言い始めた弟をよそに、私は放置されていたカップ麺に向き直った。早速ソースを絡ませなければ。お腹の虫は限界に達してる。このままじゃ背中とくっついてしまうわ。

食欲をそそる香りに誘われてあふれ出るヨダレをこらえつつ、ソースの袋に目を向けた私の視界に飛びこんできたのは、


「うわぁ……」


ソースまみれになった自分の握り拳だった。怒ったって、なんもいいことないわね……。

肩を落とした私はのそのそと手を洗い、冷蔵庫をとぼとぼ開いた。確か焼きそばソースがあったはず。

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