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役目

1059/2/15

研究施設内にて正体不明の生物を捕獲した。外見はサルに近いが、後ろ脚二本で直立歩行し、体毛は薄く、服を着ており、我々の知るどのような生物とも特徴が一致しない。

また、対象は独自の言語と身振り手振りをもって我々に接触してきた。どうやら高い知能を有しているらしい。しかし、我々の言語体系とは大きく異なる対象の言葉を理解することはできなかった。

技術開発部門に翻訳装置の調整を依頼し、捕獲した対象は身包みはがして全裸にした後、畜舎のサル部屋に放り込んでおいた。



1059/2/16

昨日捕獲した生物を畜舎から別室へ移動させた。他のサル達にやられたのだろう、一晩の間で傷だらけになっている。幸いにも軽傷ばかりで、命に別状はないようだ。手当てをしてやると、みるみるうちに傷口がふさがっていく様子を目にした対象は、驚いた表情を浮かべていた。対象の保有する知識に我々の持つ医療技術が該当しないか、凌駕しているのだろう。

手当て後、調整が済んだ言語翻訳装置を対象に装着し、装置が正常に作動していることを確認した。質問に答えるよう命令すると対象はしばらく唖然とした表情で硬直していたが、再度厳しく命じてやればたどたどしく答えはじめた。


以下が対話の内容である。


職員:何故お前はこの施設内にいた?

対象:わかりません。トラックにはねられたと思ったら、この場所に来ていました。

職員:荒唐無稽な話だな。それを我々に信じろというのか?

対象:信じてもらえないのも無理はありません。自分自身、自分の置かれた状況に理解が追いついていないので。

職員:ふむ……。心当たりはないのか?

対象:(言いよどみつつ)ないこともないですが、それこそ荒唐無稽な話です。

職員:かまわない。話せ。

対象:わかりました。自分の元いた世界には、次元を超えて別世界へと渡り、その世界の救世主となるといった内容の創作……いや、物語? 伝説? が複数存在していました。

職員:つまりお前は、自分のことを救世主だと思っているのか?

対象:いや、そんなことは……。(数秒間考えこんだ後)この世界の技術力は自分の元いた世界より遥かに発達しているみたいですし、自分の力が必要だとは思えません。何か、国や世界規模での困りごとなんかあったりします?

職員:ないな。

対象:ですよねぇ。(乾いた笑いの後、ため息)


記録終了。

一時間ほどの対話だったが、対象が高い知能と理性、感受性を有していることがわかった。また、我々に対する敵意は感じられず(少なくとも表面上は)従順だ。

更にその後の会話の中で、対象は「田中」という個体名を名乗った。対象の人格を尊重し、これ以降の記録では、対象を「田中」と呼称することにする。



1059/2/19

三日間に及ぶ調査の結果、田中のDNAは、この星に存在するどの生物とも異なるものだと判明した。信じがたいことだが、どうやら田中の証言はまったくの虚構というわけではないらしい。

一方で、田中のDNAが霊長類のそれに極めて近いこともわかった。このまま田中の研究を続ければ、我々の目的である「我々以外の知的生命体を創造する」という目標が達成できるかもしれない。

田中にも我々の研究とその目的を説明したが、ほとんど理解はできていないようだ。この崇高な理念を理解できないとは嘆かわしいが、協力の意思は示してくれた。今はそれだけで十分としよう。



1059/2/20

田中の知能は思っていた以上に高いようだ。わざわざ説明をせずとも、我々が操作している姿を見ただけで、機械の操作方法を覚えてしまった。

反抗の意思は今のところ感じられないが、今後のことは予測できない。よく注意しておかなければ。





1191/7/4

田中が施設に出現して130年あまりが経過したが、未だ新たな知的生命体の創造には至っていない。

田中の生物的な寿命はとうの昔に限界に達している。しかし貴重なサンプルであり、現状我々を除けば唯一この惑星に存在する知的生命体である田中を喪失することは、なんとしても避けなければならない。故に現在、延命装置によって無理矢理に生かしている状態だ。職員の中には「非人道的である」として、ただちに延命措置を解除すべきであると主張する者がいるが、そのような同情的な意見は今のところすべて却下されている。

田中はあくまで貴重なサンプルにすぎない。論理性に欠けた感情論で事実を誤認し、勘違いをしてはならない。決して。



1191/7/9

我々の悲願がついに達成された。



1191/7/9

田中のDNAを参考に、サルの遺伝子を組み換え産み出された新たな知的生命体。彼には我々の協力者である田中から名をそのまま拝借し「田中」と名付けた。

延命装置に繋がれた田中にも「田中」を見せてやったところ、田中はうまく開かない瞳から涙を流していた。理由は不明だが、少なくとも装置は異常を検知しなかった。我々同様に喜んでくれたのだと思いたい。


産まれたばかりの「田中」は、まだ赤子ほどの知性と精神力しか持っていない。彼の今後は我々の施す教育にかかっているといっても過言ではないだろう。

また、今後この種を繁殖させるためには、番となるべきメスを創造しなければならない。当初の目標こそ達成したものの、まだまだ課題は山積みだ。





1191/7/18

田中の元いた世界の「日本」という国では、田中の種族のことを「人間」と呼称していたそうだ。「人と人の間に生まれ、生きる者」という意味を持つらしい。興味深い話だ。

……何故私は、らしくもないことを考えているのだろうか。原因はわかっているが、それこそ科学者としてあまりに「らしくない」理由だ。


田中の延命措置が解除された。

本日のこす記録はこれで最後になるだろう。


【追記】

近頃物思いにふけるとき、ふと、田中の流した涙の理由を考えることがある。私はついぞ、この答えを知ることができなくなってしまったわけだ。





1192/2/15

職員の何人かが結託し、保存されていた田中のDNAを持ち出し、あまつさえ田中のクローンを生成した。それだけでも十分に冒涜的な行為だというのに、奴らは装置のプログラムを違法に改造し、田中のクローン体を何十、何百と生産しはじめた。一体なにを考えているんだ。奴らが凶行を起こした動機は理解できるが、わかりたくはない。

とにもかくにも、警備部門と技術開発部門の職員達には早期に対応してもらわなければ。このままでは施設内が田中まみれになってしまう。



1192/2/16

これが最後の記録になるだろう。


クローンの田中達は記憶と感情を共有しているようだ。高度な知的生命体である彼らは、我々の利用する装置や武器の利用方法をすぐさま理解し活用しはじめた。彼らは狡猾さと残忍性を遺憾なく発揮し、対話による事態の沈静化を試みる職員達に向けて、ためらいなく牙を剥いた。

田中達による「反抗」は留まる所を知らず、今尚状況は悪くなるばかりだ。今や田中の個体数は施設に務める職員の人数を遥かに上回っており、この混乱をおさめることは不可能に近いだろう。このスピードで増え続ければ、いずれはこの惑星の全土が、田中達に侵略されてしまう可能性が高い。


生き残った全ての職員は、産まれたばかりの「田中」を伴い、故郷であるこの惑星から脱出することを決めた。船の準備まで三日かかる予定だが、それまではなんとか持ち堪えたい。

例え私が死んだとしても「田中」だけは守り抜くつもりだ。それが私にできる、せめてもの贖罪になると信じている。

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