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ピエロ

公園のベンチに腰かけ、一人の男がうなだれていた。よほどの激務をこなしてきたのか、身に着けたスーツも髪の毛も、可哀想なほどに乱れていた。そんな男に、ピエロが話しかけた。彼は沢山の風船を持っていた。


「どうしたのおじさん?」

「……上司が、無茶なことばかり言ってきてね」

「疲れてるんだね」


男の話を聞いたピエロは、風船を一つと、それからヘアピンも一本取りだした。


「おじさん、これ見て」

「ごめんよ。疲れてるんだ……」

「あのね、おじさん。これ、おじさんの上司」

「え?」


男が顔をあげると、ピエロはにっこりと満面の笑みを浮かべた。手にしたヘアピンを、おもむろに風船へ突き刺す。パァン……! 一瞬の破裂音が、景気よく公園に響き渡った。


「いい音したでしょ?」

「あ、あぁ……」

「本当は子ども達に配る分だけど、おじさんにもあげるよ。はい」


驚いた顔で頷く男に、ピエロは風船を一つ差し出した。男は戸惑いつつもそれを受け取る。


「それ好きにしていいからさ、元気出してよ。大人が暗い顔してたんじゃあ、子ども達も笑えないからさ」


そう言ってピエロはおどけて笑う。


「ボクもがんばるからさ。だから笑って」

「……ありがとう」

「いいんだよ」


ピエロの言葉と笑顔に励まされ、男はようやく明るい表情を見せた。それを見たピエロは満足げに頷き「じゃあね」と手を振って去っていった。

一人、ベンチに残された男は、ピエロにもらった風船を見上げる。ふわふわとそよ風に揺られている様子がなんだか気持ちよさそうに見えた男は、ヒモから手を放して風船を手放した。


「……」


ゆったりと青空に昇っていく風船を、男は静かに眺める。やがて、星屑のように小さくなったのを見届けると「ふふっ……」と小さな笑い声をもらした。ベンチに手足を投げ出し、雲一つない青空を見上げる。


「いーい、気分だなぁ」


のんびりと呟いた男は、空を写しとったかのようにカラリと晴れやかな笑みを浮かべていた。

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